40 バベル

「レオっち待たせちゃってごめんね。あのさ、私が浄化をする話って聞いてるよね?」


「モチロン聞いてるッス。日帰りでは行けない場所もあるんで、事前にルートの確保や泊まる場所の予約を進めてる所ッスよ」


「ここにいるリシュリューがね……」


「リッシュだ!」


 リシュリューが呼び方を訂正するように急かす。


「リッシュが協力してくれるって!」


 ピクリとレオの片眉が吊り上がった。ヤバッ! 外部に話した事が不味かったかな⁉︎


 リシュリューが片手を上げて、レオを見た。

 

「魔塔は全面的に花巫女の活動を支援するよ、浄化の件詳しく話してもらえるかな?」


「……上に相談したいので通信機お借りしても宜しいッスか?」


「どうぞご自由に。何なら向こうのテーブルを使ってくれても構わないよ」


「そうさせていただくッス」


 レオはお辞儀をして、水晶を持って席を離れると、少し離れたテーブルで通信を始めた様子。相手はアルバだろうか……。


「ねえリッシュ、モンスターって何なんだろうね」


「説明長くなるけど聞きたい?」


 足を組んだまま頬杖をつき、意地悪そうな表情を見せるリシュリュー。


「聞きたい!」


「モンスターと言っても一括りには出来ないものでね、例えば魔素を吸収した生命が姿や形を変えてモンスターに成り果てたモノ、世界に散らばっているモンスターのほとんどがそうらしい。動物、昆虫、植物なんでもありだ」


 ふと、モロッコーンが頭に浮かんだ。

 トウモロコシが魔素を吸収して、モロッコーンというモンスターに変異したのかもしれない。


「そしてダンジョンで発生するダンジョンモンスター。ダンジョンは大昔からあるものもあれば、こちらの都合もお構いなしに突如現れる『災害』と言わざるを得ないようなダンジョンもある。ダンジョンに生息するモンスターはどういう原理なのか無限に湧いてくるんだ。そしてダンジョンには、ダンジョンの外へモンスターが出てしまうタイプと、外には全く出ないタイプがある。バベルは前者だった」


「バベル?」


「南大陸が魔塔と呼ばれる謂れになった、この国最大の塔の名前がバベル。いまや研究者が多く暮らしているバベルだけど、もともとバベルは災害で現れた百階層の超巨大型ダンジョンだったんだ」


「人が住んでるところに急にダンジョンが出来たら怖いね、考えただけでゾッとする……」


「幸い何もなかった平原に現れたと伝わっているよ。階層を行き来するための転移ゲートや浮遊する岩の通路など、どういう原理で動いているのか未だに謎に包まれていてね、現在も調査中さ」


 まるでロールプレイングゲームのダンジョンだと思った。リシュリューの説明は続く。

 

「今から何代か前の魔塔主がバベルの百階に到達し、塔からは全てのモンスターが消え去った。安全の確認が取れた後、バベルは研究所になったんだ。ダンジョンをクリアすると建物が崩壊する例もあるみたいだから、豊富な資源の採れるバベルがそのまま残ったのは幸いだったね」


「もとはダンジョンだったバベルが、いまや国のシンボルになったんだね。南大陸って魔素が薄いって聞いているけど、モンスターの被害ってどうなの?」

 

「魔素は確かに他国に比べると薄いけど、モンスターは腐るほどいるよ。ただ魔塔の住人は比較的戦闘力が高いものが多いからわりかし平和さ。この店に慣れない敬語を使うネモフィラって子がいただろう? あの子は水竜族だ。そこらへんのモンスターより何十倍も強い」

 

 カタッ、と部屋の向こうでレオが水晶の台座を持ち上げる音がした。上への連絡が終わったようで私達のもとに戻って元の場所に水晶を戻したレオは一歩下がると、帽子を外してリシュリューの前で最敬礼した。


「魔塔主様、ステラへのご協力感謝致します!」


「うん、まかせて」


 畏まったレオに対して、艶っぽく笑うリシュリューだった。

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