32 庭園デート 2
白のつる薔薇が絡んだアーチがいくつも並んだ薔薇のトンネルの中をドラが先頭を切って歩いていく。アーチの中を通ると濃い薔薇の香りがフワッと鼻腔をくすぐった。
「まるで薔薇の森の中にいるみたい」
「薔薇の森とは可愛らしい。この庭園は母様の趣味に合わせて白薔薇のみで作られたもので、いつしかホワイトガーデンと呼ばれるようになったんですよ」
「素敵だね!」
アーチを抜けると、ドーム状の白のガゼボと噴水があった。庭師が丹精込めて仕上げた庭園は、ここが山の中だということを忘れてしまう程美しい景色だった。
三段の噴水は上の段から静かに下へと流れてる。下の段には妖精を模した小さい像がいくつか並んでいた。
噴水の水に手を伸ばして遊んでいるドラを眺めながら、私とアルバはガゼボに置かれたベンチに腰を下ろした。
「ねぇアルバ、今の所体調はどう?」
「ハナと出会ってからというもの、一度も倒れていないんですよ」
握ってない方の右手を上げてグッと握って開くのを繰り返すアルバ。
「前はよく倒れてたの……?」
空を掴むように空中でグッと握りしめたあと、静かに腕をおろしていく。
「体内の魔力を抑えるために神聖力をぶつけるという独自の対処法で何とかしてきたのですが、神経を傷つけないようにする為、かなりの集中力と痛みを伴うものでして、気がつくと倒れていたことがありました」
「そんな辛いことを乗り越えてきたんだね。私もさ、こうやってアルバが魔力を流してくれてるおかげで元気でいられるんだよ……っ!?」
へへっと笑顔で見つめたら、繋いでいた手をグイッと引き寄せられ腕の中へ。
ぎゅっ。
私の顔がアルバの胸に埋もれる。微かに伝わるアルバの体温。ドクンドクンと鼓動がやけにうるさい。私の体はこわばってカチコチに。
「えっ? アルバ? えっ」
「ハナ、本当にありがとう…」
パッ、とアルバが離れて、抱きしめられていたのは一瞬だった。
「うん……? はい……」
お互いしばらく見つめあったあと、私の方が気まずくなって目を逸らしちゃった。
何が起こっていたのか脳が処理出来なくて壊れた玩具みたいな返事にナッテシマッタヨ。カチコチ。
ふと噴水に視線を向けると、ドラは噴水に登って水が出るところを塞いでから手を離す遊びにハマっている様子。私は噴水を指差して言った。
「ねぇ、アルバ、見てあれ!」
「迎えに行きましょう」
噴水に近づくと、ドラは狙い澄ましたように私とアルバに向けて噴水の水を向けた。
「「うわっっ!!」」『ドラ〜♪』
レーザービームのような水がちょうど二方向に分かれて私とアルバを襲った。
ビチャッとアルバと私の下半身にヒット。
「こらぁぁあ!! ドラー!! 降りてきなさーい!」
ドラが調子に乗り二発目を撃とうとして噴水の水を溜め始めた時、私の隣にいたアルバがあっという間に噴水まで走っていた。下段に右足を乗せ、左足をフワッと中段に乗せ、バスケットボールを取るかのような動きでドラを腕の中に抱えて地面に着地した。
『ドラァ』
「人に水向けたらダメだよ! 悪いことしたら謝りなさい!」
『ごめんなさいドラ』
ドラは謝ると発光体に変化して、わたしの元へ飛んできた。
「私もアルバもびしょ濡れだね。しかもお漏らししたみたいに濡れてるし……」
「フフッ実は私もそう思って言おうか言わないか迷ってやめた所でした」
「え! やだ! 恥ずかし……ックシュン」
「ハナ!」
? アルバが私の前で片膝をつき、私の両手をアルバの首の後ろに回すように持っていく。ビクッ今度は何が!?
「失礼します!しっかりつかまって」
グイッ! と私を持ち上げ始めたので、慌ててアルバの首元に回した手に力を込める。あっ、コレお姫様抱っこだ。
「大丈夫だよ! 自分で歩けるよ! 重いよー!」
「濡れたハナの姿を誰かに見られるわけにはいきませんからね。それにこうすれば私のズボンも隠れます」
今まで見たことのなかった少年のような笑顔。
「あはっ」「フフッ」
いつもの大人びた感じも素敵だけど、今みたいな笑顔をもっとみたいなって思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます