31 庭園デート 1

 私とミィ、そしてアルバを乗せた薔薇の家紋入りの馬車が、巨大な塀に囲まれた屋敷の門を通過していく。端の見えないほどの広大な土地に遥か遠くに見える洋風の青い屋根の屋敷、セレスティアル邸の大きさに思わず目が点になった。

 

 教皇庁は分厚い壁で囲まれた要塞のようなお城で、見た時うわぁって圧倒されたけど、個人の屋敷でこのスケールはすごい。何百人も住めそう。友達の家に呼ばれたって感じで来ちゃいけない所だ!

 

 馬車の中から見える庭園は、あちこちに白い薔薇が咲き誇っていてとても美しい光景だった。

 それにしても、門から屋敷にたどり着くまで数分かかるとは思わなかったなぁ。

 

 屋敷の前で馬車から降りると、執事らしき白髪のナイスミドルの男性と従者の青年が迎えてくれた。


「お帰りなさいませお坊ちゃま、そしてハナ様ようこそお越しくださいました。」


「ただいま、セバスチャン」


 スン……と氷のように冷たい表情のアルバ。あれっ、家だとこんな感じなの……?

 私はというと、執事とはいえばやはりセバスチャンよねと一人でニンマリしていた。


 執事はアルバの手荷物を手際よく受け取り、従者が大きなドアを開けた。

 

「「「「お帰りなさいませ!」」」」

 

 メイドがズラリと並び一斉にお辞儀する。


 吹き抜けのエントランスからは二階につながる左右の階段があった。吊り下げられた大きなシャンデリア、一目見たら高級品と分かる調度品の数々。それらは高級品といっても嫌味な感じはなく上品さが感じられた。


 アルバは執事と共に階段を上がって行った。

 

 ミィは明るい茶髪の髪の中年のメイドと何かやりとりをしている。やりとりを終えると中年女性はミィを連れてこちらに来てカーテシーをした。

 

「娘のミィが大変お世話になっております、ハウスキーパーのメイでございます」


 娘!? そう言われてみると髪色といい温和そうな顔の雰囲気がミィそっくり。ミィはお母さん似なんだろうな。


「ミィにはいつも助けられてます! お世話になってるのは私の方ですよ!」


「ハナ様ぁ〜! 勿体無いお言葉ですっ」「何ですかそのだらしない態度は」


 ふにゃぁっとした声で感極まっているミィをメイが嗜めた。


 メイの話では、一階は大広間や応接室などといった客をもてなす空間で、二階がアルバの家族達やゲストが止まるプライベート空間、地下には厨房、そして使用人が泊まる部屋があるのだそう。外から見ても素敵な屋敷だったけど、中はもっと素敵だった。


 そして、二階の部屋に案内された私は、真っ先に着替えることにした。ミィが運んできてくれた荷物の中からフロント部分がリボンで編み上げになっているパステルイエローのハイウエストワンピースが目に止まったので、この服にしよう。あとはヒールの低いパンプス。

 ワンピースを広げてみたら背中のファスナーが大変そうだったので、ミィに着替えを手伝ってもらった。やっぱり軽い服が楽でいいな、体が軽い。

 

 脱いだ袴のスカートをたたんでいると、ポケットから光が漏れ、光はコロコロと部屋の隅まで転がっていき、壁にあたると、ポンっと妖精の姿に変化した。……あ、完全にドラの存在忘れてた。


『痛たたドラ……』


「ごめんごめん! 怪我は無い?」


『大丈夫ドラー』


 キョロキョロと辺りを見渡すドラ。


『? ここは何処ドラ?』


「ここはね、教都フォーレストにあるアルバの実家のセレスティアル邸だよ。今日はここに泊まっていくの」


『探検したいドラ!』


「うーん、流石に人様の屋敷の中を探検するのはちょっとまずいよ」


「ハナ様、庭園に出る許可はいただいてますよ、他にも図書館、温泉も自由に利用していいそうです」


「温……泉……? 温泉がお屋敷にあるの?」


「ありますよー! 先代の教皇様がたいそうな温泉好きでいらっしゃいまして、源泉から温泉を屋敷まで流れるようにしたみたいです。ちなみに教皇庁にも無料で利用できる公衆浴場があるんですよ。」


 そうだったんだー、温泉! 楽しみにしておこうっと!


「じゃあ私とドラで庭園みてくるね、ミィは自由にしてて」


「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 部屋割りで隣の部屋にはミィが泊まることになっている。ミィ自身はゲストルームではなく、地下にある母親の部屋で一緒で良いって言ってたんだけど、花巫女様の側仕えを地下に案内するなどとありえないということで断られたらしい。


 ドラを初めて見る人は必ず驚くので騒ぎにならないように、赤ちゃん抱っこして連れていくことにした。それでもすれ違うメイドがドラを見ると身体をビクッと震わせて驚いてたけどね。中には高そうな花瓶を落としそうになったメイドもいて危なかった!


 外に出て、腕から降りたがっていたドラを地面に下ろしてあげると芝生の感触を楽しむように走り回っていた。


 ドラとは別の、芝生を踏む音がザッザッと近づいてきた。


「部屋の窓から外に出ていく姿が見えたので、思わず追いかけてしまいました。是非私に案内させてください」

 

 アルバだった。白のVネックの長めのチュニック、ウエストには茶色のベルトを巻き剣を刺している。足元は黒のズボン。ラフな私服姿まで絵になるー!


「わざわざありがとう」


 私服を見てテンションが上がっている私の隣にスッと来て自然に手を繋ぐアルバ。


 !! 脳内で天使がラッパを吹き始めました。喜びのラッパでもあり、私を天国に連れて行ってくれるラッパです。

 

 ボケーっと夢見心地で芝生の上を歩きながら庭園に入ると、手入れの行き届いた植木と白薔薇が一面に咲き誇っていた。何処をみても白薔薇だ。

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