28 アイビー 2

 部屋に戻るまでの間、ずっと頭の中でアイビーと会話を続けていて、部屋に戻ったあともそのやりとりは続いた。


(何万年も前の昔の話よ、この世界の創造神である聖樹ユグドラシルは自分の世話をする一人の美しいハイエルフのローレル姫に恋をしたの)


 ユグドラシルが恋?

 

(ローレルと言葉を交わしたかった一心でユグドラシルは神の力を使って、美しい青年の姿の依代を創造して、イグドと名乗ってローレルに愛を囁くの。イグドは神性を持っているから神様の化身ね。そして二人は結ばれてイグドはハイエルフの国の王になり、子供が生まれたわ。神の力で当時の文明は現代以上の発展を遂げて、移動の手段にはワープゲートなんてものまで存在していたの。何百年とイグド達の幸せな日は続いたけれど、ローレルが寿命で亡くなった日、イグドは悲しみと共に消えてしまったわ)


 ねぇ、どうしてアイビーはそんな何万年も前のこと知ってるの?

 

(アタシは、イグドがローレルに愛を囁いたことで生まれた妖精なのよ。イグドの愛が消えない限り、アタシの存在は消えないわ。ずっとイグドの子達愛し子を見守って来たってワケ)


 自称じゃなくて、ちゃんと愛の妖精だったのね。……で、その話がどう私につながるの?


(イグドの最後の子孫がハナなのよ、そしてあのドラの神性……、ドラはイグドの残滓ね。まぁ時が経ちすぎて、ハナからもらった記憶しかないみたいだけど。)


 ? ? ?


(……流石に端折りすぎちゃった? まぁアタシも流石に何万年分の記憶はないんだけどさ。イグドの子供が戦争で亡くなった時、悲しみによって洪水が起こって戦争相手の国は沈むわ、生態系が崩れるわで大変だったのよ。さらにその孫が亡くなった時には大陸が割れたり……と子孫が亡くなるたびに世界はめちゃくちゃだったワケ!)


 さらっと国が沈んで大地が割れちゃってるよ。

 

(それでハナのお母さんにあたる人が愛し子で、エルフのお姫様でね、ある日人間の男と恋に落ちてエルフの国を出て人間の国で暮らしてたんだけど、ハナのお母さんは自分の中のマナをその人間に与えちゃってさ、自分のマナがほとんどない状態だったのね。寿命を自ら削って人間と同じ時を過ごして生きていこうって覚悟してた時にハナの妊娠が分かってさ、その事をハナのお父さんに伝える前にエルフの国の兵がお母さんを見つけ出して強制的に戻されてしまったの。その後は他国との交流のためのゲートも封鎖されてお母さんは人間の国に二度と帰れなくなっちゃったワケなのよ)


 それからどうなったの?


(マナをほぼ失っていたハナのお母さんは、ハナを産んですぐ亡くなってしまったわ。ハナのお母さんを失ったハナのお爺さんとお婆さんはハナを逆恨みして、顔を見るとハナのお母さん思い出すからって冷たくあたってさ。それでハナは最低限の生活しかさせてもらえなかったの。そんな使用人以下の扱いを受けつつハナが少女へと成長した頃、ハナのお父さんは人間の国の王様になってて、連れ戻された妻を取り戻すためにずっと探索し続けてたみたいね。そして【認識阻害】のかかっているエルフの国をようやく見つけたのよ。っていうか近くまで来てたからアタシが手引きしたんだけど……。エルフの国にやっと辿り着いたら妻は亡くなってるし、妻に似た娘を見てすぐ自分の子だってわかったハナのお父さんは自分の国に連れて帰ろうとしたら、エルフの国がそればダメだって反発して、エルフの国と人間国の間で戦争が起こったの。ハナのお父さんがお母さんからもらった体の中のマナの力はその場の誰よりも優れていて、ハナのお父さんが放った火の魔法【ウリエル】がエルフの国を燃やしていったわ。結局その戦争でハナのお父さん、お爺さんお婆さんも命を落としていったわ。そこでね、ありえないことが起きてしまったの)


 ありえないこと?

 

(通常の火では燃えないはずのユグドラシルに火がうつったのよ。その時の被害は甚大で世界自体のマナが力を失ったわ。世界中にいたアタシの仲間達もその時にほとんど消滅してしまった。ユグドラシルが燃えてたことにより世界の人口の三分の二が死滅したわ。長い再生のための時間が必要になったのよ……。それこそ、何千年もね。ユグドラシルは、わずかに残った精霊と、最後の愛し子であるハナの体が燃える直前に聖域に移して守ったの)


 そこでどう森野ハナにつながっていくの?


(ハナの体は守れたけど魂が弱ってしまっていて、このままでは危ないと思ったユグドラシルは、ハナの魂を異世界に依代を作って転生させることにしたの。アタシは愛の精霊でハナがずっと家族の愛を求めていたのを知っていたから、ユグドラシルにお願いしてまずハナの両親の魂が定着するための依代を用意して貰って、その二人の間に生まれてくる赤子に転生するようにしてもらったのよ! 私はハナの魂についていって、ずっと成長を見守って来たんだからね!)


 つまり、私は地球から転生して来たんじゃなくて、逆だったって事!?


(そう! 地球では私の声が森野ハナに届かないし、何の説明も出来なくてもどかしかったわ。この世界と地球の時間の流れが違ってて、地球の一年がこっちでは数百年経ってたワケよ。魂の抜けたハナの体にそろそろ森野ハナの魂を戻さないと、生命の維持活動が限界を迎えそうだって、妖精のネットワークで仲間のモモから連絡が来てさ、いきなり森野ハナの魂を地球からこの世界に戻すのもなあって思って、アタシは待ったをかけたのよ。それで、寝ている森野ハナを一旦仮死状態にしてこっちの世界のハナの体に魂を戻して、朝までにはこっちに戻すっていうリハビリを何度かしてたことがあって……)


 それ、なんか心当たりある!

 やけに長編アニメみたいな夢をみることがあったけど、起きたら思い出せなくて、一生懸命思い出そうとしてた記憶ある。たぶんそれだったんだ。


(地球で八時間眠っているハナがこっちで活動していたのって数ヶ月あったから、ハナの活動が花巫女様だって伝説になっちゃってね。精霊達で作ったハナの服も神衣かんみそだって騒がれて……)


 地球で眠ってた間にこっちで活動してた私が、花巫女伝説を作っていったって事!?


(そうなるワケ!)


 じゃあさ、あのゲームって何だったの!?


(ハナの体に魂を戻す本番の前に、何らかの媒体を使って起きてる状態の森野ハナにこの世界の情報を伝えておきたかったから妖精ネットワークでこっちのイケメン達の情報ゲームの素材を取り入れて、森野ハナのお母さんにアイデアを送り込んで作ってもらったゲームに神の力を吹き込んだのよ。森野ハナは『乙女ゲー』にハマってたからね、これなら自然にやってくれるだろうって思ったワケよ)


 ……それで森野ハナは死んじゃったんだ。私にとっては、森野ハナの人生が全てだったのに、こっちの世界の都合でいきなり人生リセットさせられたって事でしょ!?それってすごく酷い事だと思わない?


(わかってる、憎むならアタシを憎んで欲しい)


 ………………。


 ………………………………。


 …………私に家族の愛を教えてくれたのもアイビーなんだもんね……。


(………………)


 ………………あー! もうっ! 憎めないよ!

 事情は分かった! で、これから私は何をしていけばいいの? 私のマナの問題はどうすればいい?


(……ハナの体は生命活動は維持できていても、マナが少なくなると命が危ないから、苦肉の策で愛の妖精の力で魔力をマナに変換できるように、私の神性の一部をハナの体に移しておいたの。アシストするためにゲームの外観を使ってステータス見れるようにしたりね。)


 それで、ドキドキするとマナが溢れて来てたんだ。

 でもそれだと根本的な解決にならないよね。


(多分……だけど、ドラが鍵になると思うわ。)


 そういえば、イグドの残滓がどうって言ってたね。


(ユグドラシルのカケラと言ったら分かりやすいかしら。ドラがこのまま成長していけば、世界に再びマナが溢れて、ハナも体外からマナを取り入れることが出来るようになると思うの。)


 ということは、ドラが成長するまで花巫女として水やりを続けて、その間私が死なないように恋をしてドキドキしていかないといけないってことで、合ってる?


(合ってる! ドラは過去の記憶が無いみたいだから、無理に思い出させるんじゃなくて自然に少しずつ記憶を取り戻していくのがいいと思うわ。急に沢山の事思い出して感情が爆発したら、世界が壊れちゃうかもしれないし。)


 全然そんなことするようには見えないんだけどなぁ。

 部屋で前転しながらコロコロ転がって遊んでいるドラをじっと見つめるとドラと目が合った。


『ドラ?』


 きょとんとするドラ。

 うーん、本当にこの子が神様なのー?

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る