27 アイビー 1
早起きした私は、髪の毛をポニーテールに結び、ゆったりとしたブラウスに濃紺のロングスカートに着替えるとドラと一緒に神殿の外へ出た。
ドラの言ってた『聖域』でこの体が眠っていたっていう話がずっと気になってモヤモヤしてたので、ユグドラシルを直接見に行くことにしたんだ。
神殿は山の麓に建てられているので、一歩外へ出るとそこは山の中。今日は風が強くて肌寒い。ぶるっ。
『ハナ、寒いドラ?』
「うん、風が強くてちょっと肌寒い」
発光体のドラが私の周りをクルッと一周すると、どういうわけか体の周りが温かくなった。
「わ、ドラってこんな事出来るんだ!」
『ハナをあったかくしたいって思ったらいつのまにか出来てたドラ』
「ありがとね」
山を見上げると沢山の建物が見える。ちなみに、山道を登っていった先には『教都フォーレスト』があって、私のお披露目のためのパレードが近いうちにそこで行われる予定らしい。
神殿からユグドラシルまでの道は、木の板が並んだ木の道もあれば、滝の流れる音を聞きながらあたり一面苔だらけの岩場の上を通ったりした。凸凹しているので転んで怪我をしないように注意しながら進んで行く。
濃い霧が見え始めたのでユグドラシルはすぐそこだ。
外界を遮断するようにユグドラシルの周りにはいつも濃い霧が立ち込めている。霧を打ち消すかのように朝日の光が差し込んで、光に照らされたユグドラシルは美しかった。その荘厳さに思わず息を飲み込む。
視線を上から下に落とすと、見回りをしている複数の従士の姿が見えた。
「花巫女様! おはようございます!」
従士の一人が私に気付いて敬礼した。私服でも分かってもらえて良かったー。
「おはようございます。いつもより見回りの方が多いみたいですけど何かあったんですか?」
「それがですね……」
従士と話してみると、どうやらユグドラシルの新芽を狙った泥棒が後を絶たないらしく、通常よりも警備を厳重にしているということだった。
ユグドラシルの葉には万病が治る等の伝説が残っているのでその価値は計り知れないらしい。
ぺたり。
ユグドラシルの幹に触れてみても、特に何も感じないなぁ。
『ドラーー!』
ずいぶん上の方からドラの声がする。
『ハナ、ユグドラシルに直接水やりするドラ!』
「え? 今ーー??」
私のところまでドラが降りて来た。
『体に無理のない範囲でマナを注ぐドラ』
「随分抽象的ね……、わかった!」
聖樹の根元にむけて金のジョウロを傾けて水を注いでいく。ぶるっ。今度は寒さのせいではなく悪寒によって体が震えた。まるで風邪の初期症状のように頭がズキズキしはじめ気分が悪くなる。これ以上は自分の足で帰れなくなりそうだったので、ここまでにしておく。
光り輝く水滴が木の根にスゥーッと吸い込まれていく。
パァァァッ!
「……え?」
ユグドラシルの幹からピンク色の発光体がフワーっと飛んで来ると目の前でブレーキがかかったように止まった。
ナニなに何!!?
なんかドラみたいなの出て来たぁーっ!
発光体をまじまじと見てみると、ピンク色の髪に葉っぱのドレスを着た握り拳くらいの女の子が見えた。背中の羽根を羽ばたかせて飛んでいる。これぞ絵に描いたような妖精の姿。左手を腰に当て右手で投げキッスのポーズを決めている。
『アタシはアイビー! 愛の妖精よ!』
何か新しい妖精増えちゃったーー! しかも自称愛の妖精。チラッと従士を見てみるとその場にへたりこんで拝んでいる。悪いけど放っておこう。
「えっと、アイビー初めまして、私は……」
『ハナでしょ、知ってるよ! ずっと見てきたから』
!?
「ちょっ詳しい話、聞かせて! 私の部屋まで来てもらっていい?」
『いいもなにも、これからずっと一緒にいるわよ!』
そう言ってアイビーは、わたしの胸の中にスゥーっと入って消えてしまった。
「ねぇドラ! 今私の中にアイビーが入っていったよね?」
『ドラァ〜』
(騒がなくても大丈夫よ!)
うわっ! 頭の中でアイビーの声が!!
(あそこにいるやつに聞かれたく無いんでしょ?)
……あ。従士に聞かれたく無いから部屋に行こうって言った理由ちゃんとわかってたんだ。
(知りたい事って、ハナがどうして別の世界から来たのかって事でしょ?)
知りたい。もとの私の体とこの体の持ち主がどうなっているのかを知っているなら教えて欲しい。
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