29 自重をやめた私は好きに生きていこうと思います

 それから一ヶ月後。

 

 私は午後から行われる花巫女お披露目パレードのため新しく届いた花巫女の衣装に袖を通しているところだ。

 

 本来なら数ヶ月かかるところをこの服を作るために前倒しで作ってくれたのだそう。


 ロサさんがオーダーメイドしてくれた新しい花巫女の衣装は、前のシンプルだった黄緑色の無地の生地とは変わって、着物部分に小花の刺繍が施されていてとっても華やか。着物の布地は白で金とピンクの花の刺繍、袴は深緑色で裾にもワンポイントの花の刺繍が、帯には大きめの黄色のリボン、足元には編み上げブーツを。

 実際に身につけてみると着物を広げて見た時より可愛いかった!


 そしてずっと白粉の匂いが嫌で拒否してきた化粧をする時がやって来た。ミィは丁寧に私の顔にクリームを塗り、白粉をポンポンと肌にのせていく。最後に唇に紅を引いて完成。

 

 髪はミィのアレンジで左右に大きく膨らませた三つ編みを作って、アップにして一つに後ろでまとめてスッキリとしている。ミィの手の動きを鏡越しに見てたけど、不器用な私には再現できそうに無かった。まるで美容院でセットしてもらったみたい! ピンクの花飾りと翡翠のイヤリングをつけて完成!


「どうしてでしょうか……可愛いしか言葉がでてきません……!」


 着替え終わった私をみて、両手で口を抑え感無量の様子のミィ。アイドルを前にして言葉を失ったオタクのようなそのリアクション、わかる……わかるよ! ミィ!


「ミィが髪型可愛くしてくれたからだよ、ありがとね」


「いえいえ! そんな!」


 コンコン、ガチャッ。


 ……このノックの勢い、アルバだ!


「ハナ、迎えに参りました」


 やっぱりーー!!


 ドアが開いて現れたのはアルバ。いつもの騎士服よりも刺繍が多くてゴージャス感がある。肩と胸にはプレートアーマーが装着されて、さらに国章である聖樹が金色で刺繍された深緑色のマントを纏うその姿は騎士感マシマシである。

 

 アルバの顔面が国宝レベルだから国章はアルバの顔に変更しよう? アルバの刺繍の入ったマントみんなでつけよ? 数日ぶりにアルバに会ったせいか、前会った時よりもカッコよく見えるーーっ。っていうかマント良いッ! アルバの騎士服の魅力を数倍アップしてる。マントグッジョブ! どうしてでしょう、カッコいいしか言葉がでてきません……! アルバしか勝たん!

 

 アイビーから色々聞かされてから一生分は泣いたし、もうメソメソしない。今までは元の体の持ち主への遠慮の気持ちがあって自重してたけど、元々私の体だって分かったし推し活して生きていこうと思います。

 ちなみにアイビーは『何かあったら心の中でアタシを呼んで! それまでは眠りにつくわ、じゃあね』といって私の中にずっと入ったままあれから出て来ていない。


「ハナ……」


 いけない。アルバに見惚れて思わずぼけーっとしてしまった。困り顔のアルバ、私を心配してる!?


「……すみません、ハナがいつも以上に綺麗で見惚れていました」


 アルバもかーーい!

 気のせいか、首筋に視線を感じる。


「この髪、ミィが頑張ってくれてさ。似合ってるかな?」


「とてもよく似合っていますよ」


 ニコッと微笑むと、ミィの方へ行ってなにかを耳打ちするアルバ。ミィはコクコク頷いている。何だろう。


「ハナ様、すみません三つ編みが緩んでしまっていたようです。すでに三つ編みの癖がついてますので、一旦解いて一本の大きな三つ編みに変更しますね」


「ごめんアルバ、ちょっと待っててもらっていい?」


「構いませんよ。」


 ミィは二本の三つ編みを解いて丁寧にブラッシングしたあと、一本の三つ編みをつくってから、両側の毛を摘んで、すごく大きな三つ編みになった。これだけ器用なヘアアレンジを自分で出来たら毎日楽しいだろうなぁ。


「ハナ様出来ました!」


「ありがとう! じゃあ行こうかミィ」


「はい、色々用意するものがあるので少し遅れてから参りますね」


 今日は身の回りの世話の為にミィもついて来てくれる。


『ドラも行くドラ〜』


 トテトテとドアまで私達を追いかけて来たドラ。


「今日はすごく沢山の人がいるところに行くから、ずっと省エネモードでいてくれる?」


『あいわかったドラ!』


 ドラはポンっと発光体になって、私の右肩の上へ。


 神殿は盆地の上に建てられているんだけど、神殿の敷地内には騎士団宿舎や使用人などのための宿舎、訓練所といったような施設が建てられている。

 教皇様やアルバのご両親は、これから向かう先の教都フォーレストにある屋敷にそれぞれ住んでるけれど、アルバは騎士団宿舎に寝泊まりしているらしい。

 

 教都フォーレストに向かう一本道には馬車と馬を引いた神殿騎士達がズラリ。騎士団の中でマントをつけているのはアルバだけみたい。騎士団全員がプレートアーマーを付けている。その騎士の列にはレオっちもいた。

 

 木に縄で繋がれた美しい白馬が興奮した様子で鳴いていて、レオっちはその白馬を落ち着かせようとあわあわしている様子だ。


「ハナ、少しの間ここで待っていて下さい」


「うん」


 白馬の元にアルバが向かった途端、白馬の鳴き声がピタリと止み、アルバはその白馬に乗ると私のところに戻って来た。くっ、まさかリアルで白馬の王子様が見れるとは思ってもみなかった! ビジュが良すぎるー。

 っていうか、一緒に馬車に乗ってくれるのかと思ってたけど、違ったみたい。


 栗毛色の馬に乗ったレオっちもアルバを追いかけてこっちに来た。


「マキシマは団長じゃないとご機嫌斜めっスよね〜」


「手間をかけさせて悪かった」


 じゃれあいながらやって来た二人。イケメン同士の絡み良きかな良きかな。その白馬はマキシマっていうのね。


「ヤッホー! ハナっち様! その服似合ってるね!」


「ヤホ! レオっち様! ありがと!」


 ジト目で私とレオっちを見つめるアルバ。


「頭上から失礼します。本日は神殿騎士があなたをお守りします」


 誓うように右手の拳を左胸に当てるアルバ。アルバに続いてレオっちも拳を胸に当てた。そうか騎士団が集まってたのは私の護衛のためだったんだ。


「よろしくお願いします」


「ハナ様ー!」


 トランクを手にしたミィが合流した。


 そして神殿騎士の護衛のもと、私とミィの乗った馬車は教都フォーレストへ向かったのだった。

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