23 マナと魔素 1

 ケビンの「奇跡だぁぁっー!!」という声を皮切りに、あちこちから「痛みが消えた!」「なんだ今のすげえ光は?」「奇跡だわ!」……とかなりの騒ぎになり、順番待ちしていた村民たちは異様な興奮に包まれていた。

 救護室の中で何が起こったのか一目見ようと一気に村民が押し寄せて部屋がぎゅうぎゅう詰めになる。さらに騒ぎを聞いて駆けつける者まで出てきた。このままでは押しつぶされて負傷者が出てしまう。


「ハナ!」

 

 人混みの中を縫いながらアルバが私の元まで駆けつけ、身を挺して庇ってくれた。私の頭を守るように手を添えて抱きしめてます。ひゃぁぁ。


「静まりなさい!!!!」


 モス司祭が大きく張り上げるとそれまで騒がしかった部屋がしん、と静まり返った。


「あの光は花巫女様のもらたされた奇跡!」


 そう言ってモス司祭はバッと両手を広げる。どよめく村民達。


「おお!」「花巫女様だって?」「あの御伽話の?」


「聖樹様のお導きに、そして花巫女様のもらたした奇跡に、私達の感謝の祈りを捧げましょう!」


 ……ははっ。なんか大事になっちゃった。


 私以外のこの場にいる全員が、手を組んでお祈りしてる! ロサさんやアルバまで!? ひええええ。


 祈り終わったモス司祭がシスターアンナと目配せをしたのが見えた。

 

「ここにあなた達の無事の帰りを祈りましょう」


「はいはい! それでは皆さん畑仕事に戻りましょう!」

 

 モス司祭とシスターアンナが救護室にいた村民達を部屋の外へと案内しはじめた。


「オラ、畑仕事さ行って来やす!」


 畑と聞いて、ケビンが元気良く部屋を出て行った。


「本日の治療活動は終了です」


 と言いながらシスターリゼが今だに熱狂して帰ろうとしない村民の背中を押して帰していった。


『ドラの言うとおりだったドラ!』


「何とっ」


 光の粒が喋ったことに驚きの声を上げるモス司祭。

 喋らなければ虫扱いされ、喋ると騒ぎになってしまうドラ。


「今日は驚きの連続です、まさか精霊様にまでお会いできるとは」


 うやうやしく頭を垂れるモス司祭。その声は感動のあまり震えているように聞こえた。


『おもてをあげるドラ』


 ドラってばたまに時代劇口調になってるけど、これってもしかして私の記憶を共有してるんじゃ……。乙女ゲームにハマる前はよくテレビで時代劇の再放送見てたし。そう考えると今まで感じた違和感に説明がつく気がするなー。


「ドラはポケットにもどってて!」


『ドラァ……』


 しゅん。声に元気がなくなったドラは大人しくポケットの中に。たまには強く言い聞かせる必要がある。


 首を傾げ何かを考え始めたロサさん。


「ん〜、このままハナちゃんを表に出したら間違いなく騒ぎになるわね。治療活動も終わったことだし、静かに裏門から神殿に帰ることにするわ」


 頬に手を当てながらロサさんが言った。


「シスターアンナ、裏門にの馬車の手配を」


 モス司祭の言葉に従い部屋を出ていくシスターアンナ。


 そうして予定よりもだいぶ早く、グラス村を後にしたのだった。


 ガラガラガラ……。神殿に戻るため私達は再びそれぞれの馬車の中へ。先に乗ったアルバに手を差し伸べられて、そのまま手を繋いで隣の席にストンと座らされてしまっています。強引さに驚いてむうっと睨みつけると、アルバが心配そうに私の顔を見つめ返した。顔が! 近い! 私の鼻息かかっちゃうって!


「ハナ、体調のほうは? 初めて魔法を使うと魔力発現時の魔素酔いと言って頭痛や吐き気などの症状が……」

 

 アルバは言葉を飲み込み、手を握ってない方の左手を口にあてた。絵になるなぁって前も思ったけど考える時の癖なのかもしれない。今すぐ画家を呼んで悩めるアルバの肖像画を描いていただきたい!

 

「そういえばドラ様がハナは魔素を取り入れられない体質だと言っていたな……」


「私はどこも具合悪くないよ!」

 

 アルバの顔が近いせいで私の鼻息とか手汗が出てないかとかが気になってるよ!


『取り入れる必要が無いドラね』


「必要無いってどういう事? 魔素を取り入れられないとどうなるの?そもそも魔素って何なの?」


 矢継ぎ早に質問する私。アルバは魔素を取り入れすぎてて、命に危険が及ぶレベルなんだもの。その逆パターンの私もヤバいんじゃないの?


「魔素は魔力の元になるもので空気中にあります。呼吸をすれば体に取り入れられるのですが、魔素を感じることができなければ体に魔素は貯まらず、体の外に抜けていきます。我々エルフは他の種族よりも魔素を体に取り込める量が多いので魔力が強く、寿命も長い」

 

『今の魔素はマナの出涸らしドラ。ハナの体内にはピカピカのマナが巡っているから、わざわざ魔素を取り入れる必要が無いってことドラ』


「マナ??」


『魔素はもともとはマナって呼ばれていたドラ! マナはユグドラシルから生まれた全ての命に宿る力。今のユグドラシルからは新しいマナがなかなか生まれないドラ。マナが古くて悪くなってるのが魔素ドラ〜』


 エッと顔を上げるアルバ。


「私は空気から魔素を得る説を唱えた、天才学者フラムの近代魔素説派ですが、初代教皇ユリウスが論じた万物の起源はユグドラシルのマナにあり、で知られるマナ説が正しかったということですか……。さらには今の魔素は昔に比べると劣化していると……。これは世界の常識が覆った瞬間ですよ」


 地球の端が滝だと信じていた時代に、実は地球は丸いんですよとでも言われたようなショックなんだろうなぁ。


『アルバは体に魔素を貯めれる量が異常に多いドラ、だから具合が悪くなるドラ、ハナも多いけどハナの中に溜まってるのはピカピカ、アルバの中のはドロドロしてるドラ』

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