19 グラス村 1

「ねぇ、グラス村ってどんな村なの?」


「百人規模の長閑な農村ですよ。主な農産物は小麦なんですが、グラス村産の麦は特に出来が良くてグラス麦という名称で人気があります。同じようにグラス村で育ったガーガー鳥はグラス鳥と呼ばれていて非常に価値が高いんですよ」


 親切丁寧に私の問いかけに答えてくれるアルバ。ブランド米にブランド地鶏といったところかな。


「レオさんが最近グラス村に負傷者が出るって言ってたのって、もしかしてワイルドボアが農作物を狙って村に入ったせいだったりするのかな?」


 アルバは口元に手を当てて少し考える様子を見せた。もしこの場所に彫刻家がいたらアルバの考える姿の像が出来上がっていた事だろう。


「通常のワイルドボアは豚とさほど変わらない大きさなんですよ。村には魔獣対策の柵もありますし、小規模ですが村の自警団もあります。通常であれば被害は少ないはずなんですが、あの希少種のつがいが村を襲っていた可能性はありますね、むしろ怪我ですんでいたのなら幸いでしょう」


 この世界には豚もいるんだね。そういえば馬車をひいていたのも普通の馬だった。知っている生き物がいてホッとする。


「確かにあの二頭が襲って来たら、死人が出てもおかしくないもんね……」


 馬車はガラガラと音を立てながら木々の間を通り抜けていく。


「そろそろグラス村に到着しやす」

 

 御者がそう案内すると馬車のスピードが徐々に緩やかになり、窓から見える景色が林から開拓された土地へと変わっていく。小麦畑は刈り取った麦が束の状態で畑に並んでいる。いまはモロッコーンの収穫時期なのか、モロッコーン畑が目立つ。

 

 神殿からリーフタウンに行った時は馬車に乗って二十分ほどの距離だったけど、グラス村は体感一時間くらいの距離に感じたなぁ。


 モンスター対策で囲まれた柵の間に、村の入り口の簡素な門があり、革製の防具を身に付けた門番が一人立っていた。

 

 馬車が一旦止まり、門番と御者がやりとりした後、通行許可が下りたようで再び動きして村の中へと入っていく。


 平屋のログハウスの建物や中央の広間、鍬を振るい畑仕事をする村人達の姿をが見えた。アルバに聞いていた通りのこじんまりとしていてのどかな印象の村だった。

 畑でパンパンに太った白い鳥がガァーガァーって鳴いてる! 鳴き声は違うけど白い羽根に赤いトサカ。ニワトリじゃん!! こっちだとガーガー鳥なのね。

 

 パカパカと村に響いていた馬の蹄の音が止んだ。


「目的地に着きやした」


 聖樹のシンボルマークのついた、白亜の木で建てられた真っ白い教会。ステンドグラスの模様が聖樹を象っている。広い庭には炊き出しのための設備が既にセッティングされていた。


 馬車の積荷を教会の庭に下ろしていく。

 

「ロサ様! ようこそいらっしゃいました!」

 

 赤茶色の三つ編みを揺らしながらシスター服の女性が迎え入れてくれた。


「こんにちはシスターアンナ。来る途中ワイルドボアの希少種に襲われて到着が遅れてしまったわ」


 シスターアンナとロサさんが話し始めた。


「もしや! つがいの!」


「ええ。うちのアルバが討伐したわ」


「ああなんという聖樹様のお導きでしょう!実はそのつがいに村のモロッコーン畑が何度か荒らされていまして、村人が驚いて転んで怪我をしたり、逃げている途中に怪我をする者が何人も出たので、リーフタウンの冒険者ギルドに討伐依頼を出していたのですが、報酬が低いせいなのか誰にも受けてもらえなかったのです」


「まぁそうだったのね、それなら依頼取り消しは早くした方がいいわ、誰かが受注したらキャンセル料が高くつくもの」


「そうですね。依頼は取り消しして、成功報酬の大銀貨一枚を後ほどお支払いします!」


 ……大銀貨が日本円でいうとどのくらいなのか私はまだ勉強不足で知らない。アルバとケーキ屋さんに行った時、銅貨を一回り大きくした大銅貨二枚で払っていたから、大銅貨は一枚千円くらいかなとは思ってた。子供でも知ってそうなお金についての価値をアルバにも聞くのも変だろうし……、時間ができたら神殿の図書館でまた調べ物をしよう!

 

「大銀貨一枚出すのも苦しかったでしょう。倒したのがうちの子で良かったわね。支払いは無しよ! ナ! シ! 孤児院で使って頂戴。そのかわり夕食にとっておきのワインお願いするわね!」


「あぁ、感謝いたします……」

 

 ロザリオをギュッと握り締めるシスターアンナとふと目が合った。


「ロサ様、そちらのお方は花巫女様でいらっしゃいますか?」


「そう! うちの子のハナちゃんよ!」


 うちの子? うちの神殿の子ってことでよろしいでしょうか?


「ハナです、シスターアンナよろしくお願いします」


「聖樹様のお導きに感謝いたします」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る