17 私のやりたい事
「自信は無いですけどこれから花巫女として胸を張れるように頑張ってみたいです。ロサさんと教会に行って癒しの魔法について学びたいですし、お披露目があるのならきちんとご挨拶したいと思います。ですので皆さんのお力を貸してもらえたら嬉しいです、よろしくお願いしますっ!」
「よくぞ決意してくれた! ワシはその意志を尊重し、できる限りの協力をしよう!」
勢いで言ってしまった感はあるけど、先ほどの自分の発言に嘘偽りは無い。明日から頑張るよ!
「今日はこの辺でお開きにしましょうか! また明日ね、ハナちゃん」
「本日はありがとうございました。ロサさん、明日はよろしくお願いします」
アルバと二人、入室した時と同様にドアの前でお辞儀をし部屋を後にした。
「それでは部屋までお送りします」
アルバの手に握られたランタンが周りをぼんやりと灯す
「うん、ありがとうアルバ」
部屋を出て数メートル歩いたあたりで、ようやく緊張が解けて肩の力が抜けた。
「あのね、教皇様に呼ばれたって聞いた時さ、何かとんでもない命令されるのかと思ってたから実際ここまで私を尊重してくれると思ってなかったの。優しくてユーモアもあって素敵なご家族だね」
「うちの家族は誰にでもああではありませんよ、外面は別人ですからね。ハナが素直で可愛らしいからあの人達の仮面が外れたんでしょう。気に入られたって事ですよ」
素直で可愛らしいて! さりげなくほめ殺しされている。外面は別人って聞いて、見張りに対する冷たい態度のアルバがふと頭をよぎった。まさかね。
「おやすみなさい、ハナ」
私の部屋の前まで来ると、手の甲にお休みのキスをされて、アルバとお別れした。挨拶なのはわかるんだけどドキドキして慣れないよー!
薄暗くなった部屋に戻ると、ひと足お先に私の肩の上から緑色の光がフヨフヨ~と私のベッドの布団の中へと潜っていった。
私も寝巻きに着替えて明日に備えて早く寝よう。すっごく疲れたしお風呂は明日の朝でいいや!
ベッドの中で元の姿に戻って、赤ちゃんみたいに指をしゃぶって寝ているドラの頬を撫でる。思えば私が願いヶ丘で力を使って倒れてから、大人しくいい子にしてたなぁ。私が倒れたのを自分のせいってずっと気にしてるのかもしれない……、おやすみなさい、ドラ。
♦︎
朝風呂から上がった私はタオルで全身を拭いたあと、ドライヤーを片手に髪を乾かす。やっぱり人任せにするより自分で出来ることは自分でやった方が気楽でいい。
体からラベンダーの香りがほんのりと漂った。
リラックスする香り……。
昨日、夕食を食べに出ていた間にミィがバスタブに綺麗なお湯を張ってオイルを入れてくれたんだろう。
バスローブを羽織りクローゼットを開く。
ゲームのヒロインの基本装備って風にしか見てなかった花巫女の衣装だったけど、この袴を着て花巫女として教会に行くんだ! と思うと気持ちを新たにして頑張ろうって思えた。
コンコン
「おはようございます! ミィです入ってもよろしいでしょうか」
「どうぞ!」
「失礼いたします」
ガチャ
お風呂上がりで着替えの終わっている私の姿を見て、ツインテールから元気が無くなっていくミィ。
「ハナ様ぁっ」
「うん?」
「私に仕事をさせてくださぁぁーい!」
「仕事が減ったほうが楽できてよくない?」
「ハナ様の専属メイドの希望者、めちゃくちゃ多かったんですよ、メイド長やロサ様と面接してやっと決まったんですからー!とってもやりがいを感じる仕事なんですーっ」
「そんな人気だったの…」
花巫女のネームバリューが大きいからだろうけど。
「どれだけ花巫女様についての伝説を知っているか、花巫女様をどう思っているか、そしてどういう風にお世話をしたいかを熱く語ってきましたよ!」
まるで会社の面接官と入社志望者ね。
「本当にやりたかった仕事が出来て毎日が夢のようです、特にハナ様の美しい御髪のお手入れをしてる時が一番の……」
うっとりと語りだすミィはどうやら花巫女オタクらしい。
「そろそろお腹がすいてきたなぁー」
「メニューにご希望はございませんか?」
「いつも通りおまかせするー!」
「かしこまりました、それでは準備してまいります」
まだこの世界の食文化を把握できていないので、迂闊なことは言えないので、出してもらったものを食べていく。
ミィがいなくなった後、ベッドの上の布団がモゾモゾと動きドラが起きあがった。
『ドラー、教会行くドラー!』
「おはよう、ドラ。これから朝食だから教会に行くのは朝食の後! 教会行く時も昨日みたいに大人しくしていられる?」
『出来るドラ!』
「そっかそっか、いい子!」
ドラを抱っこして、部屋の奥のドラのために用意されたスペースに向かう。そこには布でできた絵本やぬいぐるみ、木製のおもちゃなどが置いてあるキッズコーナーのような場所だ。
「朝食が来るまで、遊ぼっか!」
『ドラードラードラー!』
頭より一回り小さい布製のボールを、放物線をゆっくり描くようにドラに向かって投げる。
ドラは両手でキャッチすると、私に向かってとんでもない方向にボールを投げ返して、私はそれを必死に取りに行く。
もー! ドラったらわざと変なところに飛ばしてるんじゃないでしょうねぇ! まぁ変なとこに飛ばされても私は壁側にいるから、ボールが部屋の壁に当たればそのまま床に落ちるからすぐ拾えるんだけど。
体がいい感じに温まった頃、ミィがワゴンで朝食を運んできた。今日の朝食もスープとパン。
本日のスープは、コンソメとはちょっと違った風味のこの世界独特の味。謎の燻製肉と謎野菜が入った透明感のあるスープ。
料理が出るたびに、これはなんの野菜? どの肉? と聞くと返ってくるのはいつも聞いたことのない名前ばかりなんだよね。美味しいし今のところお腹を壊したこともないので、黙々といただいてます。
「今日のパン、食堂で食べた時と同じコーンの味がする!香ばしくて美味しいね」
「はい。モロッコーンはスープやパンに良く使われてるんですよ」
「へぇー、モロッコーンっていうんだ。じゃあ昨日のポタージュもモロッコーン?」
「そうです。モロッコーンは植物系モンスターで、見た目は普通の野菜ですが、いざ収穫しようとすると実の部分に足を生やして逃げ出してしまうんですよ。子供の頃はよくモロッコーンの収穫の手伝いで追いかけ回してました〜」
植物系モンスター? 足が生えて逃げ出す?
いちいち気にしてたら何も食べれない! 気にせずいただきましょう! もぐもぐ。
「ごちそうさまでした!」
コン! ガチャ!!
「ハナ!」
騎士服に身を包んだアルバ。今日も相変わらずカッコいいけれど、突然ドアがあいてびっくりしたし!
ノック一回って身分が低い人が鳴らすって習いましたよ?
「おはよアルバ、ノックのあとに返事してから入ろうね……」
ずっと気になってた事をついに言ってやりました!
「ハナ、そろそろ出発の時間です、行きましょう」
まさかのスルーーー!!
「分かった行くよー、ドラ!」
『ドラ』
ボール遊びに飽きたのか、ボールを枕がわりにしてゴロンとしていたドラが発光体へと変化して、定位置となって来た私の右肩の上へと飛んで来た。
『出発ドラー!』
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます