15 教皇様との対面 1
部屋の中で生活していると、ここが山の上に建っている神殿の中だということをうっかりと忘れそうになるけど、部屋を一歩出ると真っ白い大理石の柱が一列に並び、床や壁、天井に至るまで白で埋め尽くされた空間からは静けさと神聖さが感じられて、ここは神殿なんだってことを改めて実感する。
壁には所々に伝説を物語るフレスコ画が飾られており中には聖樹や花巫女をモチーフにしたものもある。
うっかり迷子になってしまいそうなくらい神殿は広い。
アルバの後をついて神殿内を歩いていると、神殿内を警備している騎士団員と何度かすれ違った。
「団長! お疲れ様です!」
と一旦足を止めて敬礼のポーズをとる騎士団員に対して、アルバは無表情に
「お疲れ様」
と目もくれずに一言返すだけ。
てっきりお疲れ様です〜ニッコリ天使スマイル! で返すのかと思ってたからなんだか意外。
他の部屋よりも装飾が豪華で大きな扉の前に立っている騎士が、こちらに気づいて声を張り上げた。
「アルバ騎士団長、そして花巫女様がお見えになられました!」
夕食に呼ばれたのって私だけじゃ無くてアルバもだったんだ! 暫くするとズシリと低くて威厳と品格さえ感じさせられる老人の声がした。
「入りなさい」
ギギィ
騎士が扉を開く。
部屋に入ると、アルバが右足を引き胸に手を当ててお辞儀をし、私もほぼ同時にその隣でスカートを摘み上げてお辞儀をする。アルバが頭を上げるのを横目で見てタイミングを合わせて顔を上げた。
顔を上げると豪華な料理の置かれた長テーブルの一番奥にはミトラを被り白の法衣を纏った白髭のお爺さん……教皇様が座っていて、四十代くらいの男女が向かい合うように座っている。
入り口から一番近い椅子が二脚分空いているので、そこが私達の席なのだろう。座学で習った上座と下座が早速役に立った。
「座りなさい」
さっき聞いた時よりも教皇様の声が柔らかい。
アルバはイケおじが座っている側の席に座り、私はアルバの向かいの席に腰を下ろす。
「お久しぶりです、教皇様」
「アルバ、今は家族しかおらん。教皇様は無しじゃ!」
「はい、お祖父様」
アルバと教皇様のやりとりを聞いて、ずっと前に見てしまったアルバのステータス画面がふいに脳裏に浮かんだ。
「教皇の孫」
あの時は見ちゃいけないもの見てしまった感が半端なくて、思い出さないように、考えないようにってしてるうちにすっかり忘れてたわ!
今いるのは家族だけってことはあとの二人はアルバのお父さんとお母さんかな。
家族水入らずの中に余所者の私が混ざりこんでますよー!
「初めまして教皇様、本日はこのような席にご招待くださり、ありがとうございます」
「教皇のパウロじゃ。ハナよ遠慮はいらん、お爺ちゃんと呼んでくれてもかまわん! なんならアルバのヨ・・・」
教皇様の言葉を遮るようにアルバ母が被せて言う。
「お父様、そういった話は後に! さあさあ、料理が冷める前にいただきましょう、それでは」
みんなでワインの入ったグラスを持ち上げる
「「「「「乾杯」」」」」
ゴク。恐る恐る一口飲んでみたら葡萄ジュースだ!
「ハナちゃんは嫌いな食べ物あるかしら?」
「特に無いです」
「じゃあこのトマの実のラタトゥユも大丈夫ね、トマの実苦手な子もいるから……」
アルバ母がアルバをチラッと意味ありげに見つめる。
「アルバ、トマの実苦手なの?」
私が尋ねると
「それは小さい頃の話ですよ」
とアルバが微笑みつつ、アルバ母に向かって余計なことを言うな! 的な目線を送ったのが見えた。
アルバ母がラタトゥユを入れてくれた器や、サラダを私の前まで運んでくれている。
「ありがとうございます」
(私も何か動いた方がいいのかな?)
戸惑いつつ、アルバに小声で尋ねるも
「ハナはお客様ですからそのままでいいんですよ。このウッドディアの香草焼きもいかがです?」
と、食べやすいようにスライスしてお皿にとって渡してくれた。
パクッ!
「初めて食べる味だけど、クセがなくて美味しいね」
「狩りに出た甲斐があったな、アルバ!」
アルバ父が笑った。
「え! このお肉ってアルバが狩りしてきたの?」
「はい、サンジェルマン卿と朝から狩に出かけてました」
「なんだぁ水臭いなアルバ、私のことは常日頃から父様と呼びなさいといってるだろーが」
「あなた!ハナちゃんが引いてるわよ!騒がしくなってごめんなさいね。遅ればせながら紹介させてもらうと、あそこで偉そうに座っているのが私の父、教皇パウロ。私がその娘ロサよ。そして夫で枢機卿のサンジェルマン、婿養子ね!そして私たちの息子のアルバ。いつも息子がお世話になってるみたいね!ホホ」
ロサさん早口で勢いが凄い。
サンジェルマン卿の髪は黒、眼はアイスブルー。学ランのような立襟の黒い司祭服を着て腰には緑色のストールを巻いている。ロサさんは金髪ストレートで金色の瞳の美女。淡いミントグリーンのドレスがロサさんの雰囲気によく似合っている。
「ハナです、よろしくお願いします」
『ドライアードのドラ! ドラ〜』
発光体のまま挨拶するドラ。
「花巫女と妖精に会えるなんて、生きててよかったわよねぇアナタ!」
「まさに聖樹のお導きだな」
ロサさんとサンジェルマン卿がウンウンと頷く。
「ところでハナちゃん、あなた癒しの魔法使えるでしょ?」
「はっ、はい、多分ですが」
実際に使ったことはないけれど、ステータス画面には、「癒しの魔法 レベル7」
って出てたんだよね
「多分?」
「使った記憶が無くて」
「私も癒しの属性持ちなのよ、同じ属性を持つもの同士なんとなくわかるのよねー」
「俺や爺さん、それにアルバは聖属性だな。光の盾をバババァーンと出して味方を守ったりする」
サンジェルマン卿がニカッと笑う。
あんなに緊張してたのが嘘みたいに楽しい時間が流れ、皆がデザートを食べ終わると、教皇様はテーブルの上にある小さなハンドベルを鳴らした。タイミングを見計らって待機していたのかぞろぞろとメイドが数人入ってきて、テーブルの上を片付けて出て行った。
メイドが出て行った後一瞬シーンとなり、それまでずっと聞く側に回っていた教皇様が口を開いた。
「ハナよ」
「はいっ!」
「ワシの父が生きていた頃に聞いた話なんじゃが、幼き頃に花巫女に出会ったことがあると、自慢げに何度も聞かされたものでな。黄金の髪に翡翠色の瞳を持つ美しい少女で、独特の衣装を身に纏っていたそうじゃ。それは父がいつ花巫女が戻って来てもいいようにと肖像画をもとに作らせた衣装なんじゃ。定期的に新しく作り直しておって良かったわい。父も喜んでいることじゃろう」
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