13 突然のアポ

 はっ! わたしのデート!! どうなった?

 

 気が付いたら寝巻き姿でベッドの上でした。

 デート中に何度もアルバと繋いだ右手を見つめていると、私が目覚めたことに気づいたミィが駆け寄ってきた。


「ハナ様! お目覚めでしたか! あぁ、良かった……」


 なんか大袈裟ね、ミィ。


「ねぇ、私ってどうやってここまで運ばれたの?」


 担架で複数人に担がれて運ばれる自分を想像する。


「はい、アルバ様がハナ様を抱き抱えながらベッドまで連れてこられました」


 抱き抱えて……? つまり人生二度目のお姫様だっこをされていたって事? うわーん自分の頬をビンタしてでも起きていたかったよぅ。


「じゃあこの着替えはミィが?」


「はい」


 今まで着ていたミィから借りていた服もミィが回収してくれたんだろう。

 

「ミィから借りた服、洗濯もしないで返すことになっちゃって、ゴメン……」


「とんでもございません、それにハナ様に洗濯などの雑務は不要です!」


「ねぇ、今って朝? それともお昼?」


「朝です……が、ハナ様が戻られてから二日間眠っておられました」


「二日も?」

 

 夏休み中夕方まで寝たことあったけど、流石に丸々二日も寝たことはなかったよ!

 それにしても、今まで保健室のお世話になった事無かったんだけどなぁー……


『ハナー!!』


 寝巻きの胸ポケットから緑色の発光体が飛び出て、ドラの姿に変わった。ドラの目には涙が浮かんでいる。


『ドラの説明が足りなかったせいドラ……、ドラの頭の葉っぱがちょっと濡れるくらいでよかったんドラ……、でもあのときたくさんの水がかかって、ドラは楽しくなってしまったドラ。もういいって止めておけば、ハナが倒れることもなかったドラ……ごめんなさいドラ〜〜』


「そっか! なら次から気をつければオッケー!」

 

 覚えてないとはいえお姫様抱っこしてもらえたみたいだし、結果オーライ!


 ベッドから降りた直接に軽い立ちくらみがあったけど、体に感じた違和感はそれくらいで、特に異常はなさそう。そのまま少し歩いてドレッサーに腰掛け、ミィに髪の毛をブラッシングをしてもらう。


「胃に負担のなさそうなスープを用意するように伝えてまいりますね」


 ミィが私の髪を梳かし終わると部屋を後にした。


 鏡に映った私はいつもよりちょっと顔色が白っぽく感じるけど、目にクマも無いしむしろ美少女に透明感がアップされて、儚げのある美少女って感じ! 自分のこと美少女っていうのも変だけど、この姿って自分のものじゃ無いように感じるから、なんていうか他人をみて感想いってるような感じなんだよね。

 

『ハナが寝てる間、アルバが来て自分が誘ったせいでって謝ってたドラー』


 ノオオオオオ! アルバは一ミリも悪くありません!


「ドラはその時どうしてたの?」


『ドラはずっと省エネモードになってハナのそばにいたドラ!』


「そうなんだ」


 コンコン。


 いつもの丁寧さを感じるノック音。ミィだ!

 

「ミィです、朝食をお持ちしました」


 やっぱりね!


「どうぞー」


 ガチャ。


 ミィがドアを開けると香ばしいコーンの香りが漂った。


「胃に負担が少ないよう、粒のないコーンポタージュにいたしました」


 ミィの運んできたワゴンに載った、銀色のドーム状の蓋(クロッシュっていうらしい)を開けると、湯気の立つコーンポタージュと、焼きたてのテーブルロールが二つ並んでいた。

 

 どちらかというと粒入りのコーンスープ派なんだよねー! なーんて思いつつ良い香りを漂わせるコーンスープをスプーンですくい取り口へと運ぶ。

 美味しい! インスタントじゃない手作りのコーンスープってまるでトウモロコシそのものを食べているみたいに濃厚なのね。


「ねぇねぇ、スープにパンを浸して食べてもいいかなぁ?」


 ミィにドン引きされるかもしれないので、一応聞いてみる。


「この部屋の中なら大丈夫です」


 他の場所でそれをやるのはNGで、部屋の中では多めに見てもらえるってことね!


「ミィの心が広くて助かるよ。うーん! 浸けパン美味しい!」


 最後の一滴すら残さず、パンに染み込ませてパクリ。


「ご馳走様でした!」


「ハナ様の体調に問題がなければ、本日の夕食は教皇様と共にするようにとのことです」


 テーブルの食器を片付けながら、ミィがさらりと言った


「教皇様と! 夕食を?」


「とても慈悲深いお方ですよ」

 

 この国トップのお偉い様と夕食ぅぅ? それって総理大臣に会うみたいな感じ凄すぎてわけわかんないし、緊張を通り越して実感が湧いてこないよぉ!

 

「体調は問題無いけど、浸けパンしてるような私が行って失礼にならないかな?」


 何度かナイフとフォークが必要な食事が出たことがあって、初歩的なテーブルマナーはミィから教わっていたものの、全くといっていいほど自信が無い!


「では、おさらいしましょうか」


「ミィ先生! お願いします!」


 ミィが苦笑しながら、ワゴンの上にあった未使用の皿とカトラリーをテーブルの上に並べる。


「ナイフとフォークは外側から順に使います。持つ時は、人差し指をそえて左手にフォーク、右手にナイフです」


「うん、そこまでは大丈夫!」


「食事中に、フォークやナプキンを落としてしまったら、ご自分で拾ってはなりません、使用人が拾いに参ります」


「へぇ〜それは知らなかった」


「スープを飲む時は音を立てないようにお気をつけくださいね」


「それは前から知ってた!!」

 

「あとはですねぇ、食事中にカトラリーを置く時は、フォークとナイフを八の字に、食事が終わった時はこう、ナイフとフォークを揃えてお皿の右下部分に置いてください」


 実際にお皿の上にナイフとフォークを置きながら教えてくれるので実にわかりやすい。


「ありがとね、すごくためになったよ」


「少しでもハナ様のお役に立てれば幸いですっ! それでは片付けてまいりますね〜、失礼いたします」


 うーーん。困ったことになったなぁ。教皇様に会ったら一体どんなことを言われるんだろう。

 

 この国のために働け! とか?


 でもこの神殿でよくしてもらってるってことはきっと教皇様のご意向なんだろう。神殿内の雰囲気もいいし、会う人みんな良い人ばかりだし、怖い人じゃなければいいな。

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