12 願いヶ丘にコスモス揺れて

ピコン

 生命力――アップ↑――


 生命力――アップ↑――


 生命力――アップ↑――


 (うるさいなぁ)


 ピタッ サイレントモードon

 

 頭に鳴り響く電子音が止まった。サイレントモードなんてあったんかい!


 アルバと繋がれた手。

 緊張して手汗かいてないか気になって仕方ない。


 アルバに連れられ街の入口まで来ると、帰りの馬車が見えた。あれ? このまま帰っちゃうの?


 →リーフタウン

 ↘︎願いヶ丘ねがいがおか

 

 街の入り口ある案内板を見ると、進んでいる方向からして目的地は願いヶ丘みたいね。

 

 歩いて数分で丘に到着。意外と街からすぐだった。


「ここです、この時間にこの丘から見える夕焼けをハナに見せたかった」


「わぁ……」


 青空から夕焼けに変わっていく途中の空色。

 青、紫、オレンジ……。

 なんだか、学校の帰りに空を眺めながら家に帰ってるみたいな切ない感情が込み上げた。


 手はまだ握られたまま。


「ハナ…………」


「はっはい」


「魔力は生命力と同等なんですよ」


 ……も、もしかして、キスされるのかとおもった私をお許しください。急に魔力の話?


「はい?」


「なので、私以外から魔力を摂取するようなことがあれば、摂取された者はどうなると思いますか?」


 考えたこと無かった。


「えーと、倒れちゃう?」


 頭を振るアルバ。

 

「寝たきり、あるいは死ぬかと」


 予想以上に重い答え。


「え?、死?」


「正確には、ハナが私から魔力を奪っているのではなく、私の意思で私からハナに魔力を流し込んでいるので、ハナは無意識に魔力を受け入れる許可を出しているに過ぎません」


 つまり、私が安易に誰かに触れた時、意図せずに魔力をもらってしまうようなことは起こらないってわけね。ホッ。


 急に緑色の光がポンっと弾け、ドラの姿が元に戻った。

 

『もう首輪の心配いらないドラ』


ドラはふむふむ、と考え込むようなポーズをとった。


『そうドラね〜ハナは魔素を取り入れられない体質だから、アルバからもらうのが一番いい方法ドラね〜アルバ、役得ドラ〜』


 何をいってるんですか! とでも言いたそうな目をドラに向けるアルバ。


「魔素を取り入れられない? 今までどうやって魔力を回復して来たんです?」


 魔力は、空気中の魔素を体に取り入れることで補われるらしい。そして私の体は魔素を取り入れられないらしい。知らなかった!


『それはハナが⬜︎⬜︎⬜︎で⬜︎⬜︎⬜︎から⬜︎⬜︎⬜︎・・・・・・』


「今何て??」


『……あれ? 忘れちゃったドラ』


 ???


『ハナ〜そろそろお水欲しいドラ〜』


 スカートをぐいっと引っ張って、上目遣いでお願いするドラ。


「任せて!」


 アルバから魔力貰いたてで、魔力が漲ってるのがわかる。何度かやって来たので慣れて来たのか、イメージするとすぐに手のひらにはずしっと重みのあるすでに水の入った金のジョウロが。


 ドラの頭頂部にジョウロの水を注ぐ。


 水遊びしている小さな子供みたいに、元気よくドラがくるくる回ってはしゃぐ。


「ハナ!見てください、ドラ様の足元が!」


 ジョウロからでた水の染みたドラの足元の草むらを中心として、ピンクや赤、白に黄色と、コスモスが次々と地面から咲き広がり、丘全体を包み込んだ。


「コスモスが、こんなに……」


 急に景色が変わってしまったことに驚く。


『水、注ぎすぎドラ〜』


「えっ、私のせい?」


「この花はコスモスという品種なのですね」


 あたり一面のコスモスに目を奪われるアルバ。


「そう、コスモスの花言葉がね、ピンクが純潔で、赤が調和、白が優美で、黄色が……自然美って言われてるの!」


 実家が花屋だったから、花言葉にはちょっと詳しいのよね。

 黄色はにはもう一つ、「幼い恋心」っていう意味があるんだけど、口に出すのがちょっと恥ずかしくて自然美の方にしちゃった。なんだか私の気持ちをコスモスが代弁してるみたいで恥ずかしくなったから……。


「なんだなんだ」「昨日までこんな花無かったよね?」


 丘を登って夕陽を見に来た人の驚く声が遠くで聞こえた。


「騒ぎになる前に帰りましょうか、こっちの道から戻りましょう」


 再びアルバに手を繋がれて、誰ともすれ違うことなく丘を降りていく。


 馬車に戻るとホッとしたのか、身体がだるくなり、意識が朦朧とし始めて私は瞼を閉じた。

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