11 好きですよ♪

「凄い行列……」


「予約してあるので私達はすぐ入れます。行きましょう」


周りは男女のペアばかり。

私達も他人から見たら恋人同士に見えたりして?


ドキ……ドキ……。


「いらっしゃいませー、二名でご予約のアルバ様ですね、ご案内いたしまーす!」


 エプロン姿の女の子の店員がやって来て挨拶すると、他の店員達もいらっしゃいませー! と続いた。


 『三名ドラ!』


 姿だけではなく声まで小さくなったドラの声は私だけに聞こえたみたい。


 入り口にはクッキーや紅茶などの販売スペース。

 お店の中央にはフルーツタルトやチーズケーキ、クリームがこぼれ落ちそうなショートケーキなどのホールケーキが並ぶショーケースがある。

 

 味の想像のつかない不思議なフルーツの載ったケーキが並ぶ中、ピンク色の苺? のショートケーキが目に入った。

 一粒の大きさが三倍くらいあって大きくて赤色ではないけれど形はどう見ても苺そのもの。

 

『ベリーのショートケーキ』と書いてある。


 私はこれにしよう! と心に決めてテーブル席についた。


 店員さんはテーブルにお水とメニューを置き、

 

「お決まりになりましたらベルを鳴らしてお呼びください」


 と言うとレジの方へ戻って行った。

 

 イケメンがケーキのメニューみている風景ってなんだか可愛い。

 

 そういえばうちのお父さんが甘い物苦手で、クリスマスケーキやバレンタインチョコすら食べない人だったんだけどアルバはどうなんだろう……。

 私の中で男の人は甘い物苦手なイメージがあるー。


「アルバは甘いもの平気?」


 アルバはメニューをめくる手を止めると、私の目を見て


「甘いものが好きな男性をハナはどう思いますか?」


 と言った。


 ドキ……ドキ……!

 

 なにそれ、質問に質問で返すの反則なんですけど!


「え、えっと……、可愛いって思う」


「甘い物が苦手なら?」


「うーん……、あ!お父さんみたいだなぁって思うかな」


「好きですよ  甘い物」


 ドキッ!!!

 その倒置法、ずるくない?

 好きですよ、のあとに間があって、心臓がバクバクした!!! 甘い物ね、甘い物!!!


「私はこの、ベリーのショートケーキにする! アルバは?」


 私はメニューの中のベリーのショートケーキのイラストを指さす。


 アルバというと、ずっと私の目を見続けてメニューを見ていない。いつまで見てるのぉ!照れちゃうんですけど。


「ハナが選んでください♪」


 アルバの視線をメニューに戻そうと話を振ってみたものの、逆にアルバが食べたそうな物を一生懸命探す私をさらにガン見する形になってしまったよ。


「アルバ、チョコレートは好き? 苦手?」


「好きですよ♪ チョコレート」


 くぁーー! さっきから語尾に♪ ついてるように聞こえるし!

 

 もしかしてわざと好きを強調して言って、私のことからかってなーい? って私の自意識過剰よねあはは。


「じ、じゃあ、アルバはチョコレートケーキに決まり! あとは飲み物だね」


 ドリンクメニューのなかには、オレンジジュースやコーヒー、紅茶といった馴染みのあるのもあれば、キャロット魔人ジュースとかスライムジュースなんてやばそうな飲み物もある。


「紅茶にしようかな〜、本日のおすすめ紅茶はリンガティーって書いてある。リンガかぁどんな味なんだろ?」


「ハナが食堂で食べていたフルーツ、あれがリンガですよ」


「あの甘酸っぱかったフルーツ! あれリンガだったんだ」

 

 確かにあれは林檎そっくりの味だった。

 この世界では林檎=リンガなのね。

 リンガの紅茶、ケーキに合いそ〜!


 アルバがベルを鳴らし、店員を呼ぶ。

 

「ケーキセットを二つ。ベリーショートケーキとチョコレートケーキで。飲み物は紅茶とアイスコーヒーをブラックでお願いします」


「かしこまりました」


 コーヒーをブラックで飲める男の人、なんか大人に感じてカッコいいなぁ。私は砂糖とミルク無しには飲めないや。


 ケーキが来るまでの間なに話そう。うーん、それにしても、アルバってばほんとイケメンなんだから。

 男の人なのにまつ毛こんなに長いなんて反則でしょ。滴る汗までも綺麗だわ……って、……あれ、お店の中涼しいのに、アルバ冷や汗かいてない?

 

 ユグドラシルでのアルバの言葉が頭をよぎった。

 

 もしかして、あれから魔力分けてもらってなかったから、具合悪くなってた?!


『ハナ、アルバから魔力を貰うドラ!』


「失礼します!」


 アルバの手を握る。これは決して不純な気持ちではないんだからね。


「………!」


「アルバ、魔力を送って!」


「……こんな時にすみません、では、いきます」


ピコン

 生命力――アップ↑――

 親密度――アップ↑――


 体が熱を帯び、力が湧いてくる。さっきまで足が棒のように感じていたのが嘘みたいに軽くなった。


 ほっ。アルバの顔色も元通り!


「お願いだから辛くなる前に言ってね、私でよければ力になるから」


「善処します。ハナ、ありがとう助かりました」


「お客様、お待たせしました〜」


 店員の登場で、いつまでも手を握っていたことに気付いた私は慌ててアルバの手を離した。

 

 ドキドキ……。

 

 私よりちょっと大きくてゴツっとした男の人の手だった。もうちょっと手に触れていたかった、なんて思うなんて私ってば手フェチかもしれない!


「リンガティーは、この砂時計が空になったら、ポットに被せてあるカバーをお取りになってお飲みください」


 説明を終えて戻っていく店員。

 

 ティーポットには布のカバーが被さっていた。これで蒸らしてるのかなぁ、初めてみた。


 砂時計は2分くらいで空になり、カバーを外すと、ガラス製の透明なティーポットの湯の中には紅茶の葉と干したリンガが浮かんでいた。うーん、いい香り!


 そしてこぼれそうなくらいの生クリームと苺? がたくさん載った、ベリーのショートケーキ! めちゃくちゃ美味しそう!


「いただきます」


 クリームの甘さはひかえめで、スポンジはふわっふわ! 

 美味しいー!! 気になるピンクのベリーの味は思った通りの苺と同じ味! 酸味が控えめでめちゃくちゃ甘ーい! 美味しーい!


「アルバも一口たべてみて!」


 ヤバイ!!!

 

 あまりにも美味しかったからアルバにも! ってケーキを一口分アルバの口元に運んでから我に返る。お母さんも食べてー! と家族にやっていたノリを、今持ち込んでしまった!!!


「……あ、今のなし!」

 

 我に帰ったと同時に、何もなかった風を装い、フォークをスゥーッと自分の方に戻そうした時、身を乗り出したアルバがパクっとケーキを食べたのだった。


うわー! うわー!

間接キス……?

 

 さっきまでなんの変哲もなかった私のフォークが、アルバの口の中に一回入ったフォークだと思ったら、自分の口に入れることが恥ずかしくなってしまって、一旦フォークを置き、紅茶を飲み始める私。

 

 ごくごくと飲むうちに空になったので、ティーポットに残った分の紅茶をカップに注ぐ。


「ハナ」


 ドキッ!


 目の前に差し出されるチョコケーキ。逆あーんです。


「こちらも美味しいですよ、ほら、口を開けて、あーんして」


 蕩けるような甘ーいイケボ。こんなセリフを面と向かってリアルで言われる日が来ようとは!


 口の中に入って来た味なんて、ドキドキしすぎて、正直味がわかんなかった。


「アルバってば、私が食べるとこずっと見てる!」


「ハナが美味しそうに食べる姿が可愛いくて、つい。」


 可愛いっていうハードルがどんどん下がってませんか?


 見られてるって思うと、緊張してケーキの味がますますわからなくなっちゃう!


「あのカップル、初々しくて可愛いわね」


 ……隣の席の夫婦っぽい二人組の奥さんが、私たちをみてそう言ってるのが聞こえた。


「ごちそうさまでした、ちょっと手を洗ってくるね」


 席を立ちお手洗いへと行く私。

 

 テーブルに戻るとお会計の紙が無くなっていることに気づく。席を外している間に支払ってくれたみたい。イケメンは行動までイケメンか!

 

 出かける前にミィからお小遣いをもらっていたので、ポケットから財布を出す。


 財布を出したことに気づいたアルバは


「ここは誘った私に出させてください」


 と言った。


「ごちそうさまです!」


 ご厚意に甘えることにしました。


 ケーキ屋をあとにすると、すっかり夕方になっていた。もう帰る時間かな? もうちょっと一緒にいたいなぁ、なんて思ってると、アルバは私の手を引いて見せたい場所があると言った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る