10 リーフタウンにて*アルバ視点
リーフタウンは見回りの仕事で何度も通ってきた場所だったが、女性を連れて来たのは今回が初めてだ。
『わあ……!』
まるで花が咲いたかのように笑う少女。
見ているこちらまで自然と笑みが溢れる。
この笑顔が見れて、誘って良かったと思った。
食堂でハナから記憶喪失と聞いた時、少しでもこの少女に元気を取り戻させてあげたいと思ったんだ。
リーフタウンなら馬車をつかえばすぐだし、何より食べるとたちまち笑顔になれるケーキ屋があるという噂を以前より騎士団仲間から聞いていた。
その時は自分が行くことはないだろうと思っていたんだが、こうして自分から行くことになるとは。
『どこを見ても花がいっぱいね』
街の景色に目を輝かやかせるハナ。この美しい景色が癒しになると良いが。
この街は美しい、しかし目に見えるもの全てが綺麗なもので出来ている訳では無い。今こうしている瞬間にも土地はどんどん痩せ衰え、何も収穫できずに飢え苦しみ亡くなっていく人がいるのだ。モンスターに襲われている人もいるだろう。間違いなく世界は崩壊に向かっている。否、いたというべきか。
聖樹を復活させようと、聖樹へ人身御供が捧げられたり、豚やドラゴンの血などが注がれたりと、ありとあらゆる方法が試されたが効果が現れたことは無かった、と文献には記されていた。
しかし、過去に誰も成し得なかった聖樹の復活をこの少女が成し遂げたのだ。
――時は遡り アルバの回想――
魔力を持って生まれた者はある一定の年齢になると、空気の中にある魔力の源である魔素を体内に取り入れることが出来るようになる=魔力発現と呼ばれ、そこから魔力をコントロールする訓練を始めるのだか、七歳だった私は、魔力発現時に魔素を必要としないレベルで魔力を含有していたため、体に入ってくる魔素は毒となり、重度の中毒症状を起こして倒れてしまった。
両親は医師の勧めにより、聖樹から遠く離れた南大陸にある魔塔に多額の研究支援金とともに私を預けた。
ステラでは大量に体に入り込んでくる魔素で寝たきり状態だった私が魔塔にきて二ヶ月ほどで歩けるまで回復したが、楽しそうに走り回って遊んでいる子供に苛立ち、魔力で体を吹き飛ばして怪我をさせてしまったり、感情の爆発により魔力が暴発し、周りを傷つけてしまうことが度々あり、益々孤立してしまった。
十歳になった私は緑欠病治療のための研究の手伝いをするようになった。手伝いと言っても物を運んだりするような雑用だ。私の症状とは真逆の原因で苦しむ人を少しでも助けてあげたかった。
魔素を極力体に取り入れないようにするコントロールの方法も魔塔で学んだ。 ゼロにはできないがこれで普通に生活できるようになった。
残る問題は魔力暴走。 魔塔の検証で、魔力は神聖力で抑え込めることを知った私は神聖力を高める訓練をし続けた。
神聖力の訓練をするなら、ステラに戻った方がいいということになり、十五歳の誕生日に私はステラへと戻った。
神聖力と魔力は今でも体の中で反発しあっていて、頭が割れそうになるほどの痛みやギュッと苦しくなる心臓の痛みに思わずのたうちまわリたくなることだってある。
医師にはどうすることも出来ないしこの状態が続くようならこの先長くないとも言われていた。私の未来は真っ暗だった。そう、ハナに出会うまでは…………。
♦︎
魔塔で研究の手伝いをしていた時の話を聞いたハナは、
『それって隠れてするような事?すごく偉いことだと思えるけど……?』すごく偉いことだと言ってくれた。
魔塔に居た時期の事を家族以外に褒められたことなど今まであっただろうか。
ハナの何気ない一言が確かな温もりとなってじんわりと胸のなかに染みこんでいくのを感じる。
『キャーッ、アルバ!髪の毛に虫が、取ってーー!』
ドラ様が発光体になったかと思えば、ハナの髪に一瞬とまり、肩の上でフワフワ浮かんでいたが、ずっと髪に虫が付いていると思い込んだハナは半泣き状態だ。
そんな様子を可愛らしく思った私にいたずら心が湧いた。ハナの美しく光り輝く髪を手に取り、そっと口付けをする。
『ハナ、虫ではありませんよ』
ドラ様とハナ様はお気づきでしょうか、ドラ様が泳いでいた噴水の水が綺麗になり、底が見えるように変化したのを。
仕立て屋のショーウインドーを見つめているハナは歳相応の可愛らしい少女にしか見えなかった。
いまからこの少女が甘いケーキを幸せそうに頬張る姿が楽しみでならない。もっといろんな表情が見てみたいと思った。
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