09 リーフタウンにて
「わあ……!」
まるで小さい頃に遊んでいたネズミやうさぎの人形の家を思い出させるような、木組みのパステルカラーの建物がズラリと並んでいる。
窓辺や街灯などを花が彩り足元には石畳の路地が広がっている。
「どこを見ても花がいっぱいね」
「美しいでしょう。このリーフタウンは聖樹に最も近い街と言われ、聖樹の恩恵を強く受けている街なんです」
「遠くなるとどうなるの?」
アルバの表情が曇る。
「逆に聖樹から距離があればあるほど、空気は汚れ作物が育ちにくくなるんです。聖樹から最も遠いところにある南大陸では、息をするのも苦しくなるという、
「緑欠病……」
「はい。そして、これはハナだから言える話なのですが、魔塔は表向きには、古に失われた数々の究極の魔法を現代に復活させるための組織となってるんですが、実はそうでは無いんです」
「えっ、じゃあ悪いこと企んで悪の研究しているとか? そんな感じ?」
ひらがなで『まとう』と書かれた黒いフードを被った怪しい集団が毒々しい色の液体を床の魔法陣に垂らす持つ姿をイメージする。
アルバは声のトーンを少し抑えて説明を続ける。
「魔塔は聖樹が無くても生きていける世界を創る為の研究を行ってるんですよ。人工で作られた木から、魔力を循環させて作った人工酸素が出るようにしていたりね」
私の脳内の怪しい集団は『まとう』の文字入りの白衣を来た研究者へと衣装チェンジして消え去った。
「それって隠れてするような事? すごく偉いことだと思えるけど……?」
「私達ステラの者からすれば、魔塔は異端者の集まりなのですよ」
あぁそうか、この北の大陸は聖樹ユグドラシルを唯一神と崇めて宗教にもなっているんだった。聖樹が無くなっても生きていける世界を作ります! って大々的にアピールしたら戦争ものだよね。
「アルバはどうしてそんなことまで知ってるの?」
「……どうして……でしょうね?」
あ……。
人には言いたく無いことの一つや二つあるよね。
魔塔関係はアルバ的にはNGだった?
アルバのことを凝視すると、私の目の前に半透明のウインドウが浮かびあがる。
ピコン
――――――――――――――――――――
アルバ・セレスティアル エルフ 十九歳
「教皇の孫」「魔力に侵されし者」
「ステラナイツ団長」
剣術 レベル6
魔力 測定不能
神聖力 レベル5
ハナへの好感度 40% ▽詳細情報
――――――――――――――――――――
うわーーーー!!!!!!
この情報非常にセンシティブーー!!!
好感度気にしてガン見したら出ちゃっただけなんですーー。あ、前よりも好感度上がってる。
ッていうか! 他人のステータス覗き見れちゃうの?
それに、▽詳細情報 って文字のところ薄く光ってるけど、今この状態で空中に向かってタッチするのも不自然極まりないし、いくら見れるからって人の情報覗き見るのって良く無いよね。ゲームなら何の迷いもなく押すけど今は現実な訳だし……。
「モンスターだーーっ!」
叫び声のあと、街の外に向かって人々が逃げ出し始めた。
街の中にモンスター? 叫び声がした場所はほんの数メートル先にある噴水の方だ。
噴水のなかで泳ぐ緑色の物体が見える。
『モンスターとは失礼ドラね!』
噴水から出て体をプルプルして乾かすドラの姿があった。
しまった! デートと街の様子に浮かれてて、ドラから目を離しすぎてた! 慌てて駆け寄る私とアルバ。
「すみません、この子うちの子なんです!」
訝しむ街のおじさん。
「見たことないモンスターだが、お嬢ちゃんがテイムしたのかい? モンスターテイマーには見えないが……」
「この方の身分は私が証明しましょう」
「これはこれはアルバ様! 非番でも街の見廻りとは、ご苦労なことで! アルバ様のお墨付きなら安心だ、お嬢ちゃん! モンスターにはしっかり首輪でも付けて管理しといてくれよな」
私の背中をバシバシ叩くとおじさんはいなくなり、見物していた人達も去っていった。
『ドラ〜』
「ドラの姿思ってた以上に目立っちゃうみたい。首輪付けろって言われちゃったしどうしようか」
『首輪?!』
ガンッ! とショックに青ざめるドラ。
『つまり目立たなければいいってことドラね!』
ポンッ! とドラの姿が消えた!
「消えた!」「ドラ様?!」
同時に驚きの声を出す私とアルバ。
ブーン、ピタッ! と髪の毛に虫がくっついた。
「キャーッ、アルバ! 髪の毛に虫が! 取ってーー!」
髪の毛にゾワっとした感覚が~!! 助けて~!!
「ハナ、虫ではありませんよ」
へっ?
髪の毛からブーン、と目の前に飛んできた虫と思っていたものは緑色に発光した球体で
『ドラ!』
と鳴いた。
……って! この声、ドラ!?
『省エネモードドラ!』
私から生まれた? だけあって、言葉使いが現代っ子なところがあるんだよね。
「気を取り直して、行こうアルバ! あっ、あそこに大きなガラスのお店があるー!」
大きなガラスのお店には、針と糸のシンボルの看板がぶら下がっている。仕立て屋だ。
ガラスの向こうにはドレスやスーツなど、色々なファッションに身を包んだマネキンが見えた。
特に、白いブラウスに、細かい花の刺繍の入った紺色のベスト、四角い模様などの刺繍の入った赤いスカートを履いたマネキンに目が留まった。
そういえば、街で見かける人々の洋服の一部にはところどころ植物の刺繍が入っていたっけ。噴水にいたおじさんの服の襟にもあったし、この街の伝統的なデザインなのかもしれない。
仕立て屋の他にも、二本の剣が交差するシンボルの看板や、鎧の看板など、装備品の店が並んでいた。
装備品の通りを抜けると、男女のペアの行列が見えた。
「ハナ、あの行列の先にこの街1番人気のケーキ屋があるんですよ」
喉が乾いてきたし、足はクタクタ。休みたいーって泣きつく前でよかった!!
ペパーミントグリーンの壁色が可愛いらしいお店に到着した。
ケーキハウス―フルール―
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