07 日替わりランチはB定食

 部屋に戻るとミィがベッドメイキングをしていた。


「おかえりなさいませハナ様っ。そろそろ昼食の用意をいたしますか?」


 もうそんな時間かぁ〜。


「ねぇ、ミィはいつご飯を食べてるの?」


「休憩の時にいつも食堂で食べてますよ、今日は日替わりランチにしようかなって思ってるところでした」


「いいな! 私も一緒に日替わりランチ食べたい!」


「いけません〜、ハナ様の体調に合わせた特別メニューをお出しするよう承っております」


「私も食堂でミィと一緒にご飯が食べたいよー。お願ーーい!!」


 両手を顔の前でパンッと合わせて拝む。


「あうぅ」


 うなだれるミィのツインテール。

 ミィは私のお願いに弱いみたい。ミィの攻略完了〜♪


 ドラは……お昼寝中。起こすのもなんだか可哀想だし、そっとしておくか。

 


 ――――――――――――――――――――

 A定食

 トマの実と燻製肉のスパゲッティー

 サラダ付き


 B定食

 ガーガー鳥のソテー

 ライス または パン

 トマの実スープ付き


 C定食

 オークの肉カツ丼

 サラダ付き

 ――――――――――――――――――――


 異世界食堂、キター!!!

 

 食堂のお代は給料から天引きされているのでお金を払う必要が無いらしく、私も無料で食べてかまわないとのことだった。


 ミィのようなメイド服を着たエルフの他に、神官や騎士っぽい人達がテーブルを囲んでいる。花巫女の衣装を着て目立っているせいか、色んな人から視線を向けられています。ドラがお昼寝しててよかったー。

 

「ミィはどれがおすすめ?」


 ネーミング的にはA定食が無難に感じるけど、オークの肉がすっごく気になる! あれっ、ミィがいない! 独り言になっちゃった。


 ミィは少し離れたところで、メイド仲間に話しかけられている様子だった。

「今はごめん、後で話そう!」と、私を優先するために断りを入れている会話が聞こえてきた。

 あぁミィの休憩時間なのに私の付き添いのせいで休めないよね、悪いことしちゃったなぁ。


「ミィー! 私はもう一人で大丈夫! 友達と食べててー!」


 すまなそうにペコペコ頭を下げてメイド仲間の輪に消えていくミィ。


 うーん。どれにしようかなぁー。


「B定食がおすすめですよ」


 私の声に気づいたのか、食事を載せたトレーを持ったアルバが現れた。


 トレーに載ったガーガー鳥のソテーは、見た目チキンステーキだし、黄金色のソースは醤油味かな? ツヤツヤ飴色に光ってとても美味しそう。


 順番に並んでトレーを取って、置かれたコップにピッチャーから水を注いで、フォーク等のカトラリーを自分でセットしたら、厨房との間にあるカウンターにトレーを置いて、注文する流れのようだ。


「じゃあ私もそれにする! B定食ください!」


 厨房のおばちゃんにお願いする。


「可愛いお嬢ちゃんだね、パンかい? ライスかい?」


「パンでお願いします」


「フルーツおまけしとくよ!」


目の前のトレーの上にリズムよくお皿が並びメイン料理が載せられ、パンとフルーツが添えられていった。


「ありがとう、おばちゃん」


 トレーを受け取り机の方に目をやると、片手を上げて合図を送るアルバが。

 空席を探すのが難しい混み具合のなか私の席をキープしてくれたみたい。 私が座るのを待ってくれていたのか、アルバは食事に手をつけていなかった。


「ごめんね、待たせちゃったね」


 アルバの向かい側の席に座り、テーブルの上にトレーを置くと、周りの席にいた騎士の人達の会話が一旦止まり、注目が集まる。


「コホン」


 アルバが咳払いをすると、何もなかったかのように会話を再開する人々。


「冷めないうちにいただきましょうか」


 ガーガー鳥がどんな鳥なのかわからないけど、良い香りが漂って私の食欲を刺激した。

 

「そうだね! いただきまーす!」


 皮はパリパリ、中はジューシー!

 この味知ってます!照り焼きチキンです!


「おいしいっ!」


「ハナのお口に合うようで良かったです」


「それにしてもガーガー鳥ってすごい名前だよね、ガーガーって鳴くのかな?」


「そうです、ガーガー鳥はステラで最もよく食べられている鳥ですが、ご存知ありませんでしたか?」


 まずい、失言だったかー。

 ガーガー鳥なんて見たことも聞いたこともありません。

 実は異世界から来ました、ここは私が遊んでいたゲームの中の世界です! なんて言えるわけもなく。

 頭のおかしい女と思われちゃうのがオチよね。


「今までのこと、思い出せなくて……」


 嘘ついて、ごめんなさい!

 記憶喪失設定でいかせていただきます!


「何と……?記憶が……!」


 一気に重い空気に。周りの人々も聞き耳を立てていたのかテーブルが静まりかえった。


「あはあはは、私は大丈夫だよ! このフルーツ甘酸っぱくて美味しい!」


 モグモグ。


 ガーガー鳥の名前まで忘れてしまっておられるとは、おいたわしや……、健気な娘さんだ……、など同情の声が聞こえてくる。うわっ気まず! 早く食べて部屋に戻ろっ。


 アルバと一緒に食べ終わったトレーやお皿を、使用済み専用の水の流れる投入口に入れていく。


「ハナ、この後予定は?」


「特にないけど、どうして?」


「午後から非番なんです。ハナさえよければ、近くの街まで出かけませんか?ケーキの美味しいお店もありますよ」


 街へのお出かけ!

 美味しいケーキ!!

 ちょっと待って、これって!

 ……デートのお誘い!?!?


「い、行きますっ!」


 人生初デートの約束が決まった。

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