06 四つの大陸
翌朝。
私の隣には寝巻きの裾を握りしめたドラがくーすかぴーと寝ている。おかしいなぁ、寝る前は別々に寝ていたはずなんだけどいつの間にかベッドに潜り込んできたみたい。
気持ちよさそうに寝ているドラの鼻を軽くツンツンと突くと体がピクッと動いた。
『ハナ〜! おはようドラ』
瞼を擦りながらドラが目覚める。
「おはよう」
ドラの笑顔に私も笑顔で挨拶を返す。
『ハナ〜! ドラの頭の葉っぱをよく見るドラ』
ドラの頭頂部にある双葉が揺れる。
『ドラの葉っぱが元気なうちは、ユグドラシルも元気ドラ! あとユグドラシルまで水やりに行かなくてもドラの葉っぱに水やりすればいいドラ〜!』
「そうなの?」
『ドラ!』
これからユグドラシルへの水やりが必要な時はドラが教えてくれるということで、今日のところは水やりは必要ないという事だしどうしようか。
ミィの用意した朝食のパンケーキを食べ終わり、花巫女の衣装に着替えながら、今日は何をすればいいかとミィに相談したところ、ハナ様は自由に神殿を見てまわっても問題ないので、まずは図書館に行ってみたらどうでしょうか、と提案されたので行ってみることにした。
この世界の文字がどうなっているのかも気になるし、会話が普通にできているからもしかしたら本だって日本語でかかれているかもしれない。
そんなわけで図書館へとやってきたわけですが、さすが異世界転生ファンタジーと申しましょうか、見たことも無い記号のような文字で書かれた本が日本語にみるみる変換されてスラスラ読めます。
『ドラドラ♪』
わたしのあとを付いてきたドラはクレヨンでぐるぐると円を描いて塗り絵中だ。大人しくひとりで遊んでくれていて助かる!
まずは文字が大きくてイラストが入っていて読みやすそうな子供向けの絵本から読んでみよう。
――――――――――――――――――――
神聖なる大樹、ユグドラシル。
大地に大いなる恵をあたえん。
神に愛されし少女、光り輝く。
ユグドラシルと共にあり。
ユグドラシルが枯れる時
大地からは実りが失われ
魔物が蔓延りこの世は終わりを迎えるだろう。
――――――――――――――――――――
最後がとても不穏です。
気を取り直して『最新版誰にでもわかる歴史入門』って本を手に取ってみた。
ペラペラめくって中を確認すると、世界地図や各国の詳細が載っているようなので、立ち読みではなく机に移動してじっくり読むことにした。
世界地図が載ったページを見ると、この世界は大きく四つの大陸に別れているのが分かる。
北の神聖教国――ステラ――
私がお世話になっているのがこのステラ。
この世に恩恵をもたらす唯一の絶対的存在はユグドラシルだと教えを広めるステラ教徒の国らしい。
昔は世界中にたくさんの信者がいたけど、ユグドラシルが枯れかけた今は権威が揺らいでいて、現在は他国とのパワーバランスが危ういって書いてある。さすが最新版ね。
ステラ教の教会と、聖樹を祭るための神殿がある。
神殿には外敵(枝を盗みに来る盗賊等)から聖樹を守るための神殿騎士団があり、ステラナイトと呼ばれている。主な種族はエルフ。
そういえばミィもエルフだったっけ。
東には鍛治職人の多く集う――和ノ国――
主に人間が多く暮らす国。
まるで江戸時代と近未来の技術が合わさったようなイラストが描かれている。
お城には電光掲示板がついているし、秋葉原のメイドのようなアンドロイドがお茶を運んでいる。
豊富な資源の眠った鉱山が多数あり、そこから採掘される珍しい鉱石から作られた武器や防具が有名で、多くの鍛治職人は和ノ国に修行しにいくらしい。
西には軍事大国の――トロイア――
多種多様の種族からなる屈強の戦士達が集う国。
国家が運営している冒険者ギルドがある。
各国に冒険者ギルドの支部があり組織の規模は大きい。
一年に一度行われる闘技場での闘技大会があって、チャンピオンに勝利すれば一生遊んで暮らせる賞金を貰えるという。強さ=お金になる国なので、一攫千金を夢見て腕に覚えのある者達が集まるのだそうだ。
南にあるのは――魔塔――
各国より集められた魔力の高い者たちが究極の魔法を求めて研究をする、変わり者の集まりと書いてある。
中でも一番魔力に優れた者が魔塔主となり、魔塔を治める。現在の魔塔主は過去最高の類を見ない天才魔導士との噂らしい。
魔塔で開発された魔法の込められた道具は魔道具と呼ばれ、生活に欠かせないものとなっている。
うーむ?
百時間以上費やしてゲームを攻略してきたはずなのに、アルバ以外の王子のことが全く思い出せないのは何でだ。
本の内容が初めて知ることばかりだった事に今更ながら気付いて愕然とする。
アルバと初めて会った時、うさぎさんの王子様! って思ったけど覚えてたのは外見と声くらい? 実はどの国の王子だったっけ? 好きな食べ物や趣味ってなんだった? どんな会話をしたら好感度が上がったんだっけ……。
『塗り絵終わったドラ〜』
ほっぺにクレヨンを付けたドラがトコトコやって来て塗り絵を開いて見せた。
「私も調べ物終わったし、帰ろっか」
『ドラ!』
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