05 花巫女のお仕事 2

 アルバに連れられて数分歩いたところに、私がこの世界に来て最初に倒れていた場所があった。


 枯れかけの聖樹ユグドラシル。


 ゲーム通りであれば、ユグドラシルが枯れると世界は崩壊してしまう。

 私が聖樹のお世話をしてこの世界を助けないといけないんだよねとシリアス気分に浸っていると、某アニメの青狸のようなダミ声が響き渡った。


『ドラ〜!』


 ユグドラシルの影から、全身緑色の五歳くらいの子供がこちらに向かって走って来る。


『ドラ〜 ドラ〜』


 元気よく走り回る子供を不審そうに見つめるアルバ。


「何だ! 新種のモンスターか!?」


『モンスターとは失礼な! ドラはハナから産まれたドライアードの妖精ドラ。ハナ〜会いたかったドラ〜!』


「妖精? この世から失われたという幻の? ドラ様、このアルバの失礼をお許し下さい」


『くるしゅうないドラ』


 私の両足にしがみついて嬉しそうに頬擦りするドラ。


 ちっちゃい体にちっちゃい手、プニプニしたほっぺが可愛いらしいけど、私から産まれたってどういうことよ!


「私はあなたを産んだ覚えはありません!」


『ドラァ〜』


 大粒の涙が滝のように流れる。


『ドラはユグドラシルの若芽から産まれたのドラ〜〜!』


 驚愕の表情を浮かべるアルバ。


「聖樹の若芽からお産まれになったとおっしゃいましたか?」


 コクン、と頷くドラ。


『ハナは枯れかけていたユグドラシルを生き返らせた恩人ドラ〜!』


「それならわたしの子供じゃ無くて、ユグドラシルの子供なんじゃない?」


『そうともいうドラ』


 エッヘン! とふんぞりかえるドラ。


 アルバはユグドラシルから新たに芽吹いた若芽を見て、放心しているようだった。


「伝説の花巫女と失われたはずの妖精の復活、私はこの時のために生きてきたのかもしれません」


 じっ、と真剣な眼差しで私を見つめるアルバ。


「ハナ、聖樹のお世話をお願いする前にお手を」


 アルバが地面に片膝をつき、私の伸ばした右手を両手で包むとそのままアルバの額に手を運んだ。


 ピコン!

 生命力――アップ↑――


 お風呂に入った時のような暖かさがじんわりと体を包み込む。


 アルバは両目を閉じると懺悔をするかのように話し始めた。


「私は幼き頃から家族の元を離れて育ちました。自分の中の大きな魔力がいつ暴走するかわからない恐怖に怯えたからです。幾度となく暴走し人を傷つけてしまったこともありました。その対策として魔力と相反する神聖力を使う訓練をしてきましたが、焼け石に水で、医師からは大きすぎる魔力は毒となり、このままでは長く生きられないとも言われていました。」


 アルバの目尻にうっすら涙が浮かぶのが見えた。


 そんな裏設定があったんだ……。


「ですがあなたと初めてお会いして触れ合った瞬間、私の中の魔力があなたの中に入り込む感覚がありました」


 ――!


 初めて会った時、手の甲にキスされて


 生命力――アップ↑――


 のウインドウが出たときに、だるかった体が楽になったことを思い出す。あの時のアルバもそうだったのだろうか。


「聖樹のそばで倒れていたあなたは魔力切れを起こしているような状態でした。そして今にも倒れそうなほどあなたから感じる魔力は少ない。ですので私の推測が正しければ、私の魔力をあなたにこうして送り込むことで、あなたは聖樹に私の魔力を使って花巫女の力を使うことができるのではないかと思うのです。明日を悲観して生きてきた私にとって、あなたは初めての生きる希望なのです!」


 額に当てられていた手が解かれる。


生命力――アップ↑――

親密度――アップ↑――


 そうか、推しとの接触で生命力が上がるのは魔力をもらっていたからなんだ。今なら校庭百周出来そうなくらい力がみなぎってる!


『ハナ、ユグドラシルのお世話をするドラー!』


「わかった!」


 金のジョウロをイメージ。


 両手にどこからか現れて収まる金の空っぽのジョウロ。


 前回と同じ様に根元に向かってジョウロを傾けると、キラキラと輝く水が注がれていった。


 ジョウロの中の水を注ぎ終わると、さっきまでの元気はどこへやら、立っていることすらも辛くて足に力が入らない。


「校庭一周すら無理ぃ」


 へたり、とそのまま地面に座り込みそうになった瞬間、アルバが私をお姫様抱っこした。


「ハナ!」


 これが、人生初のお姫様抱っこ……!


 ピコン!

 生命力――アップ↑――


 ぎゃー! 私重くないですか?


「神殿に戻りましょう」


『ドラもハナについていくドラ〜』


 ピョンとジャンプして、私に抱きつくドラ。アルバが私とドラの二人(人?)を両腕で抱えながらも幸せそうな表情で神殿へと戻るのだった。

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