01 真のエンディング、見ないとダメですか?
私の名前は森野ハナ、十六歳。乙女ゲーが大好きな至って平凡な黒髪ボブの高校一年生!
花屋を経営する父親と、ゲーム会社に勤めている母親との三人で花屋の二階で暮らしています。
今ハマっているアプリはなんと、母が私の十六歳の誕生日に合わせて作ってくれた、私が主人公のこの世に一つしかない乙女ゲー!
「ハナの命は短し、恋せよ乙女」
主に会話の選択がメインの女性向け恋愛シミュレーションゲーム。
四人の王子のうち、誰かと結ばれれば、真のエンディングを迎えることが出来る。とオープニングに流れるんだけど、ゲーム当初には攻略対象の王子は一人しかいないの。
ゲームの物語は世界樹ユグドラシルが枯れ始めて後退しつつある世界―フローリア―が舞台。
ユグドラシルの樹を可哀想に思ったハナが水を与えたことで世界を救った花巫女として認められてることから始まる。
でもその水に自分の生命力まで注ぎ込んでしまったみたいで、元気そうに見えるハナの寿命は残り数年と診断されてしまう。
生命力を分け与えることが出来る力を持つ四人の王子のうち、誰かと結ばれることができれば、寿命も元通りになれるし、王子にとっては花巫女を得られれば、他の三人の王子より強い権力を手にすることが出来るのでwin-winの関係なのだ。
生命力を分け与えるためには対象に接触する必要がある。
握手だと微妙だけどスキンシップの濃度が濃いほどハナの生命力が上がる仕様になっている。
ハナの生命力(隠しパラーメーターなので数値は見れない)が一定量の水準を満たし、王子の好感度が100%になるとエンディングを迎えるように設計されているみたい。
十時間ほどやって、好感度が70%まであがったころ、二人目の王子が現れて、ハナを取り合う三角関係に発展していくのだけれど、一番目の王子のほうが好感度が高かったため、強制ルートに入ったらしく、エンディングを迎え余韻に浸っていると
――新たにニューゲームしますか?――
というメッセージが浮かんだ。母の作ったゲームすごいなと感心しつつ
――はい――
を押すと(そもそも『いいえ』がないので、はいを押すしかないのだけど)今まで積み上げてきた好感度がリセットされた状態ではじまった。
二週目からは、二番目の王子が最初からいる状態でのスタートだ。
一番目の王子はクリア済みだったので、イベントが起こるフラグはスルーしまくり、好感度が低いまま、二番目の王子の好感度をひたすら高くしていったら、なんと、一番目の王子が病んでしまって、私を刺して自分も刺してしまう心中エンドを迎えてしまう。
……母?? 一体何を作ってるの……?
死んでしまうとまた最初からリセット扱いになるのかと思いきや、一番目の王子がはじめの状態から病んでいるではないか。
どういうシステムなのこれ? 母意外とすごくない?
初めからやり直した時に、プラスになった好感度は引き継がれないけど、マイナスだけは引き継がれるとかなのかなぁ?。
「うわーこんなのってアリ? 俄然燃えてきた!」
一度やり始めた乙女ゲーは全てのルートを攻略しないと気が済まない性格の私は寝る間を削ってアプリにどハマりし、休みの日は朝から晩までほとんどアプリをプレイする日が続いた。
そしてついに、総プレイ時間が100時間を過ぎた頃、ようやく、四番目の王子が登場したのだ。
母によれば、王子が四人登場したら本命を決めないといけないらしい。
攻略済みで思い入れのある三人の王子のうちどれを選んでもよし、四人目のニューフェイスを選んでも良し、なのだが真のエンディングの条件が開放されたあとはクリア後に別の王子を選んで遊ぶことは出来なくなるという。
それって推しを一人に絞ったあとは、他の三人の王子とイチャイチャできなくなるということ?……それなら誰も選ばないままでいたほうが良くない……?
いつもの様にユグドラシルにジョウロのアイコンをタッチして水をあげてハナの生命力がマイナス2になったところで、王子にスキンシップする為に会いに行く! 失ったぶんよりガッツリ接触してプラマイプラプラ! にしないと!
どの王子にも決めきれずに三人の王子の好感度が80%で止まっている状態である。なぜなら90%を超えるとすぐエンディングに向かうためのイベントが起こってしまうので、あえての80%なのだ。
会話が選択式なので、上がりすぎた好感度を下げるために、わざと相手をがっかりさせるようなセリフを選んで調整したりするんだけど、推しが悲しむ顔をみるのはとてもちゅらい。むしろ私が悲しい、でも悲しむ顔もかっこいいです。目の保養ありがとうございます。
そして今日はついに、四人目の王子の好感度も80%まであげることが出来た。
――システム――
全ての王子の好感度が80%を達成し、真のエンディングの条件が解放されました
――はい――
お母さんの言ってたのはこれか!
ゲーム画面を次に進めるために毎回のように出てくる『はい』のボタンをタッチする。
ぐわん。
急に意識が遠のき、私の視界は真っ暗になった。
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