第15話 対悪性怪物殲滅班

 ――ペコが作ってくれた料理を味わって食べ、久々に心も腹も満たされた気持ちで……ヨウヘイはHIBIKI先進工学研究所へと向かった。




 ヨウヘイはやはり貧乏生活が身に染みてしまっているので、交通費をケチり、徒歩で研究所に行くことにした。マユからのメッセージの文面では逸る気持ちこそ感じられたが、『最速で来い』とまでは言われていない。ほぼ任意のペースで来ていいというマユの言葉に甘えることにした。よっぽどの緊急時でなければ徒歩で行きたい、とヨウヘイは思った。





 そうして、およそ1時間。ようやく研究所に到着した。玄関扉を潜り、受付へと向かう。





「――――あら。貴方は昨日の……おはようございます。職員として早速お勤めですか?」





 例のピンクの髪に眼鏡の愛らしい受付嬢がヨウヘイにも愛想良くかわいい声で挨拶してくれた。さすがは受付嬢。会社企業に入って最初に出会う顔だ。





 ヨウヘイは思い出して、すぐにC型職員証を取り出し、首から提げて挨拶を返した。





「……お、おはようございます。あの……早速マユ……さん、に呼ばれたんで、会わせて欲しいんすけど…………。」





 ――受付嬢は実社会でのマナーやルールに詳しくないと見えるヨウヘイを察し、やや苦笑いで対応する。





「アルバイト職員とはいえ、もうウチの職員なんですから、公の場では『ヒビキ』。もしくは『所長』で結構ですよー。まあ実際は皆さん慣れて来るとフランクにお互い接しますけどね――――畏まりました。所長にご連絡いたしますねー。」





 そう言って、受付嬢は片手でヘッドフォンマイクに手を当てつつ、端末の通信類を操作してマユに連絡した。





「――――もしもし、所長ですか? ……そうです。C型のカネシロ=ヨウヘイが来られました…………はい……はい。畏まりましたー。」






 そう言って端末を少し操作し、ヨウヘイに促す。





「昨日来られた、緑色の壁の検査室はお解りになりますか? 取り敢えず、そのフロアの入り口でお待ちください。所長自ら案内致しますので……。」





 受付嬢は席から立ち上がり、建物奥の昨日ヨウヘイがマユと共に入ったエリアを指差す。





「それから…………」





「――ん? それから?」





 ――受付嬢は、少し困惑したような顔で周囲を見渡したあと、ヨウヘイに近付いて掌を口元に当て小声で会話する。





「――――昨日の今日でもう悪の根城に行くことを決めた所長を見て、お気付きかと思いますが…………ウチの所長は働き過ぎなんです。いくらご自分の過去があるからって…………ヨウヘイさんからも是非、所長に『無理し過ぎないように』って声を掛けてあげてくださいね。私もそうですけど、ほとんどの職員の皆さんが心配しているので…………。」





「――え? あ……はい…………。」





 ――昨日のマユに対する反応でも察しがつくが、マユは受付嬢から自分の身を顧みない行動にかなり心配と不安を募らせていた。それはほとんどの職員から慕われている以上、ほぼ全員が心配しているようだ。





 受付嬢は少し弱々しいながらも、にこやかに笑って席に着いた。





「――私なんかでは過ぎた行動ですが、お許しくださいね。1人でも、一言でも所長に行ってあげればもっと助かるかもしれないですから――――それじゃあ、どうぞ。お通りください。」





「……うっす。了解っす…………やっぱあの人、みんなに心配かけるほど無茶してんのか……。」




 ヨウヘイは、心からマユを慕っているであろう受付嬢に心を残しつつ、案内されたエリアへと歩を進めた。





 >>






「――――来んしたぇ。 まずはわっちについてきてくんなまし。」





 出迎えるなりマユは、挨拶も抜きにして昨日入ったエリアさらに奥へと案内した。





 ――――徹夜でもしたのだろう。目元が薄黒くなり、白く美しい肌が一層血色の悪い白さになっている。





 ――ヨウヘイは、受付嬢や職員の人たちのマユを心配する声を思い出し。思い切って声を掛けてみた。





「――――なあ、マユ。あんたよお…………。」





「……何だぇ?」





「この研究所の、ほとんどの職員さんが言ってるぜ。『所長は働きすぎだ』って。本当は気付いてるんだろ? みんなから心配されてること…………昨日なんか怪人の群れに突っ込んだりよお。もうちょっと自分を大事にしたら――――」





「知っていんすよ。それぐらいは。でもわっちは止まりんせんでありんすぇ。わっちは…………悪が憎い。わっちから全てを奪ったあいつらを根絶やしにするにはわっちの身がどうなろうと構いんせん。わっちは…………死ねないんでありんすぇ。」





 ――『全てを奪われた』とすら言うマユ。後ろ姿越しにもピリピリと感じられる、マユの憎悪。彼女は25歳という若さで、復讐鬼なのか。青春を殺したも同然ではないのか――





「――おめえよお! そりゃあいくら何でも言い過ぎっつーか――――」





「――――わっちのこなたの無茶が、単なる自分勝手なら咎められて当然でありんすね。でも、そうではない。そうじゃありんせんことを――――ここなたの区画の人から話を聴けば僅かはわかるでありんしょう。」






 ――マユはヨウヘイへ向き直ることもせず、目の前の重そうな扉を、カードリーダーに専用キーカードを認証して開けた。蒸気のような音と共に、ごごごご……と物々しい扉の開く音が混じって、新しい区画に入った。





「――――ようこそ。『対悪性怪物殲滅班スレイヤーズギルド』へ。まずはここなたの班長と班員たち全員と話をしていってくんなまし。」






 ――――対悪性怪物殲滅班スレイヤーズギルド。そこは見た目は研究所の一角に相違無かったが…………中で働いている人々は、何か異様な雰囲気と緊張感が漂っていた――――

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