第16話 サポーターたち

 ――――対悪性怪物殲滅班スレイヤーズギルド




 一見すると研究所の他の区画と同じオフィス然とした空間の延長。





 だが、よくよく見るとあちこちにやや物々しい資材が積み上げられ、他の研究所の区画に無かった計器類やスーパーコンピューターなどのサーバーらしきものがあった。





「――――…………。」




「――な……なんだ…………?」





 マユに続いて立ち入るヨウヘイだが…………この区画中の職員たちが皆、一様にヨウヘイに注視して来た。





 それは、ただ新入社員としてやってきた職員を迎える目でも、逆に異物を排斥するような目でもない。






 何か大きな感情を持って、ヨウヘイにただただ眼差しを向ける。職員たちはこれまで出会った他の職員たちとは、面構えと言うか……何か醸し出している雰囲気が違う。





 ヨウヘイは思わず委縮し、緊張感を持ちながらも前へ歩み出た。





 ――――働いている職員の中から、何やら男が慌ただしく駆け寄って来た。





「――所長、お疲れ様です。お連れになっているこの方が……例のヒーローさん…………ですか?」





「――そうでありんすぇ。彼がこれからの戦いに赴いてくんなましんす。班員全員でサポートをお願いしんす。」





「――おお~…………!!」





 男からの問いかけへのマユからの返答に、その男をはじめ、ヨウヘイに注意を向けていたほとんどの職員が、何やら感嘆の声を上げた。





「……なので、まずはここなたの主な設備と担当職員の紹介を彼に済ませて。わっちは奥の司令室に控えていんすから。」





「――遂にこの時が来たのですね! それはそれは…………畏まりました。私が責任を持ってご紹介させていただきます。」





 男は、恭しく頭を垂れた。





「――それじゃあヨウヘイ。わっちはさらに奥の部屋に行きんす。その前に、こなたの班長の指示に従って、設備を見て職員たちに挨拶を済ませてくんなまし。それが終わったら来て頂戴。」





 そう言い残して、マユは奥の部屋へと歩き去っていった。





 そして、班長と呼ばれた男が、やや緊張感がありつつもにこやかにヨウヘイに微笑みかけ、話をする。





「――貴方がカネシロ=ヨウヘイさんですね。お話は所長のヒビキ=マユから聞いております。これからの『悪』との戦いに赴く決意を固めてくださったそうで……ここの班員一同、全力でサポートさせていただきます! 申し遅れました。私が対悪性怪物殲滅班の班長を務めさせております、サクライと申します。以後お見知り置きを――――」





 ――サクライと名乗る男は、ヨウヘイにも恭しく頭を垂れた。




 この男、ヨウヘイもなかなかに長身なのだが、ヨウヘイよりもさらに背が高い。190cm台はあるだろうか。髪を後ろで縛り上げ、何やら貴族の家の執事を思わせるような仰々しい金縁の眼鏡を掛けている。それこそ執事然としてタキシードと布手袋で身を固めている。細身だが、ヨウヘイはリッチマンとしての戦いの記憶から……このサクライという男は物腰こそ柔らかだが、相当に心身共に鍛え抜かれていると気付いた。とても仕事が出来そうだ。





「――カ、カネシロ=ヨウヘイっす。よ、よろしくお願いします…………。」





 ヨウヘイは緊張から自ずと背筋が伸び、挨拶を返す。





「――まずは、この区画……対悪性怪物殲滅班について簡潔に説明させていただきますね。まあ、順に設備を廻っていきますから、歩きながら……」




「は、はい……」





 サクライは、ゆったりとした歩き方でヨウヘイを案内し始めた。





「――まずこの対悪性怪物殲滅班……別名スレイヤーズギルドですが、お察しの通り、今現在世界中で突如出現し、人々に危害を加える怪物たち……所長はやや平たい言い方で『悪』と呼んでおりますが、その怪物たちの生態と、出現する根城の研究を進め…………いずれは戦士を赴かせ、これを叩く為の組織です。無論、戦地に行く人間ばかりに負担を強いるつもりはありません。少しでも安全に、少しでも確実に……敵を叩き、調査する為にあらゆる物資や手当、作戦司令やアイテムの開発なども日夜磨き上げてきております。そうですねえ……まずは補給物資の係の者でも紹介いたしましょうか。」





 サクライについて行くと、何やら多くの物資を積み上げてある売店を思わせるようなブースに通された。





「――うっす!! 貴方がヒーローの……カネシロ=ヨウヘイさんっすねー? ウチはシライって言うっす! ここでは敵地に潜入している最中に必要な薬や食べ物、補給物資なんかを扱ってるっす!!」





 元気よく、ハキハキと説明してくれたのは、ベリーショートの髪を銀に染めてタンクトップにカーゴパンツとアクティブな印象を受ける女の子だった。歳の頃は学生ならば高校生ぐらいに見える。





「――シライさんの説明通り、ここでは敵地に持ち込んでいつでも使えるような薬や飲食物、その他補給物資などの資源を製品化して提供出来ます。HIBIKI先進工学研究所のブランドとして一般市場に卸している物も沢山ありますよ。」




「へえ~……」





 工場などで働いていそうな、生気漲る女の子の担当だが、確かに大切な仕事だ。荷物を運んだり収納したりするだけでも力仕事だろう。





「――ここではもちろん、敵地に向かう人には無償でお渡しさせてもらうっす! でも限りある資源なんでほどほどに遠慮はして欲しいっす。在庫を切らさないように努力するっすけど、もし在庫切れ起こしたらマジサーセンっす!! そん時は気合と根性でGOっすよ、ヨウヘイさん!!」





 ――快活な笑顔で声を張るシライだが、サクライは苦笑いをしてフォローする。





「はは……シライさん。危険な場合の判断は私や所長が行ないますよ。物資の在庫が無いその場合はすぐに帰ってきてもらうだけです。余計な心配ですよ。」





 シライは「そっか……」と決まりが悪そうに笑いつつ、奥に用意していた積み荷から何やら袋詰めになったものを渡してきた。





「ひとまず、傷薬に解毒剤にスポーツドリンク。あと携帯食料も渡しとくっすねー!! ファイト百発!! 応援してるっすー!!」





「おっ、とと……ありが――――」





「――貴方がヨウヘイさんですねー!? 次はこっちです。仮眠室でもありますが、怪我した時の手当てもこちらで――――」





「ヨウヘイさーん!! 後でいいからこっちも見て行ってねー!!」




「……おやおや…………。」




 ――遠巻きに見ていて、ヨウヘイはどうやら信用されているようだ。次から次へと職員たちが、サクライの指示も待たずに自分の担当設備の紹介をしてくる。サクライはしばし苦笑いをするのだった――――

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