「お飲み物はいかがなさいますか?」⑦ (一人称+二人称小説 語り:私 視点:私 主体:あなた)
「おっと、今日は当たりだ!」という大きな声に続いて「え、何だって?」というあなたの声が聞こえた。
私は目の前の客のオーダーを揃えながら並びの列を見た。
あなたはその穏やかな顔で連れの男を見ている。
私はときめいた。あなたは私のところに来るかしら。
私は何とか時間調整をしたかったが、そのささやかな努力もむなしく私のレジは空いた。あなたは二番目なのに。
するとあなたの連れは私の願いに応えるかのようにあなたを私の前に寄越した。
あなたは私の前に来る。
私は嬉しくなった。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」私は嘘偽りのない微笑であなたを迎えた。
「はい」と答えるあなた。
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
あなたはよどみなくオーダーをする。しかしドリンクについてはまだ迷っている。
このバーガーには炭酸がお似合いだわ。
私は少しの間考えるあなたの前にメニューをすっと差し出し、コーラの文字に人差し指を当てて、できるだけ可愛くトントンと叩いた。
あなたは私の顔を見上げる。そこにはいたずらっぽくあなたを見る私の可愛い笑顔があるはずだ。
あなたはわずかに頬を染め、「これで」と同意する。
「承知しました。お会計は六百円です」私は満面の笑みを浮かべた。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
トレイを受け取ってテーブルに向かうあなたの背中を私は名残惜しく見つめた。そのせいで次の客は呼ばずにやって来た。あなたが離れた後も私の仕事は終わらない。
「だよねー」という声が聞こえ、私が視線を送った先に「ん?」と首をかしげるあなたの顔があった。
キョトンとした顔が愛らしい。
私は目を閉じ、瞼の裏のあなたの残像に、また来てね、と願いをかけた。
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主体の動きを「あなたは……」と語る小説を二人称小説と言います。その多くにはどこかに語り手の「私」がいて、あなたをずっと見守り、あなたの行動を語るのです。
今回の話には、はじめから「私」が出ており、一人称小説の形式をとっています。
語り手は「私」
視点も「私」
そして主体(観察対象)は「あなた」です。
一人称+二人称小説と言っても良い形式だと思います。
なお二人称小説については、「あなたもはまる二人称小説」にて文例をあげていますので、よろしかったらご覧ください。
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