「お飲み物はいかがなさいますか?」⑥ (三人称小説 語り:無人称 視点:鈴木一郎 主体:蒼也たち)
「おっと、今日は当たりだ!」と
一郎は存在感がない。影が薄い上にコミュ障だからいつも傍観者になっている。舞台には立っているが何もせず、ただ観ているだけなのだ。
列に並んでいても前のグループに属しているのか、後ろのグループに属しているのか、はたまた単独なのか全く区別がつかない。いやそもそも存在すら周囲に認知されていなかった。
しかしバーガーの注文の時くらい一郎も台詞を発する。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
「はい」
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
飲み物を訊かれたので「これで」と一郎はメニューを指差した。
「承知しました。お会計は六百円です」
ドリンクは一郎のオーダーを聞いた店員が三人分まとめて用意するようだ。
その店員が隣の店員とこそこそやりとりする様子を一郎は気配を消して見ていた。
蒼也のオーダーを聞いた店員が紙切れを見せていた。一郎のオーダーを聞いた店員がウーロン茶を用意するとか小声で返した。
三人のドリンクはコーラ、ウーロン茶、オレンジとバラバラのようだ。
何気なく見ていた一郎はその店員がウーロン茶を注いだ後にさらにジンジャーエールを注いだのを見た。
紙カップからドリンクがこぼれることがなかったので間違えたわけではない。意識的に混入させて最終的に一人前の量にしたのだ。
そのドリンクは蒼也に渡るのではないか。一郎は確信したがいつものようにスルーした。
一郎は常に傍観者。何が起こっても介入することがないのだ。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
そして蒼也は飲んだ。
飲む前にドリンクを確かめ意を決して口にしたから、あるいは混入を予期していたのかもしれない。
「……だよねー」と叫ぶ蒼也に対し悟は「ん」と不思議そうにしたが一郎は可笑しかった。
いったいどんな味がしたのだろう。
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三人称一視点です。前回の答え合わせをする感じにするためにこのような書き方にしました。初めから全部明かした書き方です。
某大御所のミステリーに最後にもう一人登場人物がいることが明かされるものがありました。ずっといるのに見えなかったのです。まさに透明人間ですね。それに似た書き方も考えたのですが、⑤とかぶるのでやめました。別の機会に公開するかもしれません。
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