「お飲み物はいかがなさいますか?」⑤ (?人称小説 語り:? 視点:? 主体:蒼也たち)

「おっと、今日は当たりだ!」蒼也そうやが言った。

「え、何だって?」さとるが訊いた。

 蒼也は答えなかった。

 間もなく一番レジがいた。先頭の蒼也は悟の背中を押してそこに行かせた。

 そして蒼也は次に空いた真ん中の二番レジに向かった。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 ドリンクを訊かれた蒼也は、返事をする代わりに紙切れを女子店員に見せた。「これで」

 彼女は紙切れに目を走らせた。

「承知しました。お会計は六百円です」

 蒼也はそっぽを向くようにカウンターとは反対の方を向いてオーダーが揃うのを待った。

 一方、二番レジの彼女は三番レジの女子店員に紙切れを見せ、何かひと言ふた言囁きあった。

 三番レジの女子店員はドリンクを三つ用意していた。コーラ、オレンジジュース、そして最後のひとつにはウーロン茶を注いだ後にジンジャーエールを注ぎ足した。

 蒼也はよそ見をしていたからそのことに気づかなかった。そしてその特製ドリンクは蒼也のもとへ渡った。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 トレイを受け取った蒼也は蓋越しにドリンクを見つめた。そしてテーブル席に向かった。

 テーブル席ではバーガーにかぶりつく者がいる中、蒼也はじっとドリンクを見つめ、やがて意を決してドリンクに挿したストローをくわえた。

 ストローが茶色に変わった瞬間、蒼也は顔をしかめ、「……だよねー」と叫んだ。

「ん?」と悟が不思議そうに蒼也は見たが、はいつものようにポーカーフェイスを維持しつつも心の中では大笑いしていた。

 どんな味がしたのだろう。

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 三人称の小説だと思って読んでいたらクライマックスで突然「私」が出てきて、びっくりしたことがあります。観客席で観劇していた「私」が最後に舞台に上がって登場人物の一人になるといった感じでしょうか。

 なおその本についてはネタバレになるので作者名作品名は明かしません。すでにあれかなと思われた方は多いと思います。


 今回それを狙いました。「俺」はずっと蒼也、悟と一緒にいて、二人の様子を語っていたのです。店を訪れた高校生は三人組だったのです。


 ですのでこの小説は、

 一人称小説

 語り:俺

 視点:俺

 主体:蒼也たち

となります。


 三人称小説のように書いておいて、最後に一人称小説とわかるのです。

 結局のところ、三人称小説か一人称小説かは最後まで読まないとわからないことになります。


 読む方は一人称小説か三人称小説かなどは些細な問題でしょうが。


 まとめますと、一人称小説は次の三つにわけられます。


 ① 主人公型 語り手の「私」がそのまま主人公

 ② 相棒型 語り手の私は主人公のすぐ傍にいる。ワトソンタイプ

 ③ 傍観者型(無介入型) 語り手はそこにいるが全く介入せず傍観している


 今回の話は③でした。


 この話を純粋な三人称小説で書くと次のようになります。

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