第10話 過去へ
「落ち着け、自分が何を言ってるかわかってるのか、武雄」
「兄貴も知ってるだろ!あの太鼓橋を、通るんだ。あの橋は過去にいけるんだ!そうしたら、助けられる。みゆきだけでなく……」
「ああ、聞いたよ、今朝古田さんが家にきて……。あのな、武雄、俺が悪かったよ。俺が家を継いでいれば」一郎の声は震えていた。
「そんなの関係ないだろ」
「お前が別の土地に行っていれば、台風の時の子は助かったかもしれんなぁ。みゆきも実家に住んでなければ、病気にならんかったかもしれん。何より、お前に次期当主の責任を負わせなければ、もっと、もっと幸子やみゆきを労わってやれてたのかも……」
「兄貴が後継ぎだったら、幸子と出会えなかっただろ……」と武雄はつぶやいた。「俺は行くよ、通るよ橋を。試さなければ絶対後悔する。あの時、橋を通っていればって。お願いだ、行かせてくれ」
一郎は震える手を押さえ、武雄から手を離した。武雄は橋へと走って行った。
向こうから梅子が走ってきた。
「一郎!武雄は?」梅子は息を荒げていた。
「太鼓橋に向かっている……」
「みゆきが、みゆきが、息を……お前は幸子のとこに行ってやっておくれ。私は武雄を呼んでくる」
一郎は、急いで実家へと帰って行った。
俺は、気がつくと走り出していた。
「じいちゃん、じいちゃん!」
じいちゃん!
走って、走って、足がつりそうになるくらい田圃道をずっと真っ直ぐに走った。周りなんて全く見えなかった。息があがろうが、振り切った腕がもげるほど痛もうが、そんなこと気にしていられない。ただ、じいちゃんを俺は追って走った。
待って、じいちゃん。
夕日が青々とした稲や、畑のスイカやナスに反射して光った。オレンジ色に染まった空は、これ以上に無く、美しかった。
「真紘!日が落ちる!」
瑠璃が叫んだ。
じいちゃんは、過去から未来へと向かい、橋を通っていた。
「じいちゃん!」
俺は橋へと足を踏み入れた。動きがゆっくりに見える。俺が一歩を踏み出すごとに、橋の上で光が舞った。
「じいちゃん!」
その声に反応したのか、じいちゃんは、まるでスローモーションのように、振り返った。
後ろから、梅子の叫ぶ声が聞こえた。
「じいちゃん!」
日が地平線に落ちようとする瞬間、光が乱れ、辺り一体がぱあっと明るく輝いた。その瞬間、俺はじいちゃんと目が合い、無我夢中に叫んだ。
「じいちゃん!未来は、明るいぞ!」
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