第7話 大型台風

 大型台風の予報に、一家総出で備えを行った。その頃、幸子は臨月を迎え、実家に戻っていた。


「父さんついに生まれるのかぁ」と俺はニヤニヤした。


「待って、生まれた年が違う」と瑠璃。


「そんなわけないだろ。父さんは一人っ子だぞ」


「私たちが過去に来たせいで、未来が変わったのだとしたら?」


「確か数学的には、過去の干渉で未来が決まるから……」


「あー難しくてよくわからない!未来が変われば私たち消えちゃうのかな?」


「現に消えてないから大丈夫だろ」


「そっかぁ……とにかくやっと台風が来た。これで太鼓橋ができる。未来に帰れる。ほんと長かった」


「本当に帰れるの?」と俺は聞いた。


「じいちゃんが、過去に戻ったら、こんどは逆をすればいいって言ってたの」と瑠璃。


「あのじいちゃんのことどこまで信じられるかなぁ」と俺は言った。「俺はこのまま戻らなくてもいいけどな」


「なんでそんなこと言うの」と瑠璃は悲しそうに言った。


「だって、帰っても卒論を書かなきゃいけないんだよ?卒業したら、働かなくちゃいけない。ここなら、お腹も減らないし、トイレも行かなくていい。俺こっちの世界の方が楽だよ?それにさ、俺、じいちゃんに謝らなきゃいけないことがあるんだ。だから、この世界で、じいちゃんと接触する方法ないかなってずっと考えてたんだ。それがわかるまで、帰りたくないんだよ」


「謝りたいこと?」

 俺は言うか迷ったが、言わないといよいよ自分が壊れそうなのもわかっていた。


「じいちゃんさ、余命3時間って言ったのに、半日以上も持ってただろ。俺を待っていたんじゃないかなって。なのに俺、あの時さ……」

 俺は自分の手が震えているのがわかった。


「あの時さ、早く、って思っちゃったんだ。卒論書かなきゃ行けないからって……。あんなに可愛がってもらって、大切にしてもらって、俺、めちゃくちゃ恵まれてんのに」


 病院のベッドの上で苦しそうに懸命に呼吸をする姿を見て、俺は、じいちゃん!と叫んだ。その瞬間、脈が少しだけ高くなり、じいちゃんは涙を流した。その後すぐ、じいちゃんは息を引き取った。


「俺はさ……」


「卒論で心が参っていた時に、正常な思考ができないのは当然だよ」と瑠璃は言った。


 夜になると、雨風の音が強くなった。はじめは、ギシギシという家の唸る音が聞こえただけだったが、突然停電した。


 家に扉をドンドンと叩く音がした。扉を開けると、幸子の兄がそこにいた。


「生まれるぞ!幸子は病院に今向かっている!」


 武雄は雨風の中、一目散に外に出ていった。


 扉が開いた影響で、風がどっと家の中へと入ってきた。木造の古い家が倒れるのに、そう時間はかからなかった。かろうじて、全員外に避難できた。そこへ一郎さんが、芳子さんと、長男を連れてやってきた。


「みんな無事か!」と一郎は言った。 


「一郎……」と梅子が言った。「そっちは?」


「うちも家が壊れてしまった」と一郎が言った。


「台風が過ぎたら、もう一度作り直そう。うちも、一郎の家も」と梅子。「さぁ、学校に避難しましょう」

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