第5話 武雄の結婚
夜遅く一郎は1人で帰ってきた。一郎は、曽祖父と曽祖母に床間へと呼び出され、2人の前に正座をした。
「こんな遅くまで何をしていたんだ」
曽祖父は威厳のある声で言った。一郎は全く物怖じしてなかった。
「芳子の実家に行っていました」
「芳子とは離縁しろ」曽祖父は言った。
「いいえ、しません。私は、家を出ます。芳子とともに暮らします」
「それなら家を継がせないぞ」
「家は武雄に任せます」
「一郎!」と曽祖母。
2人はそっと床間を出て、洋風の応接間へと移動した。
「ねぇ、眠くないの?」と瑠璃。
俺は不思議と全く眠くなかった。それにお腹も空かない。
「もしかしたらなんだけど、ここでは物理的時間が僕らにだけ流れていない可能性はないかな。いやむしろ、流れていたら困るよ。俺、卒論終わってねぇし」
2人は誰もいない応接間のソファで寝転がると、目を瞑った。その日、俺は全く眠れなかった。それは瑠璃も同じようだった。
「武雄、話があります」
翌日、曽祖母はじいちゃんを床間に連れていった。上座に正座で深刻そうに話をする曽祖母に対し、じいちゃんは胡座をかいて、めんどくさそうだった。
「一郎が家を裏切って出るようです。この家はあなたが継ぎなさい」
「あー、うん、わかった」とだけ、じいちゃんは答えた。その意味をきちんと理解しているのかわからなかった。
「早急に結婚しなさい。お父さんが、探してきてくれますから。いいですね」
「わかったー」
それから数ヶ月もしない間に曽祖母は武雄に急いで嫁を取らせた。幸子、という隣町の女性だった。
新しく、家にやってきた20代の幸子ばあちゃんはそれはそれは元気な人でいつもニコニコしていた。同時期、一郎は家を出ていき、裏山にある土地に小さな家を建てて、芳子と2人で暮らし始めた。
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