第一章 第10話 物資運送作業

こうやって、一週間が過ぎた。

「小隊ごと、前線への物資運送。だっそうです」

「うぅ、ついに来たか」

「時間は?」

「明日の昼間まで、距離はこの手紙に書いてある」

読み終わったら燃やすって、格好いいけど、なかなか不便だ。

「取り敢えず、3人で覚えとこう」

「ググも、見る」

呼び名がないと不便なので、彼女の名前を聞いて、ググって言うらしい。

明日の昼間だと時間的にこんばん出発しないとかなり厳しい。

物資を積んだトラックを受領し、必要な銃器と荷物だけを持って急ぎの旅に出発した。

月明かりとフロントライトの灯りを頼って踏み固まった砂道を走らせる。

「初めての運転はこれか」

「良いじゃん、かっこいいよ」

「夜は寒い」

このトラックは無骨で最低の機能しか備わってない、暖房とクーラー当然なかった。

しかし、砂上を走らせる時は頼りになる。

ここは荒野そのもの。

ググが生きて拠点に辿り着くのが不思議なぐらいだ。

「言うてあたしらは物資の輸送だけだよな?」

「そのはずなんだけど」

「そうであってほしいですね…」

「…」

「そういえば、ググはどうしてこの基地に…いや、何でもない」

その時思い出した、この国の経済と文化、そしてここに生息するってことは、辺境の村ってことを。

彼女は口減らしで捨てた子なのだろう。

レイとゆいも何も言わなかった。

エンジン音しか聞こえない静かな夜道が長い間続いている。

「おい!起きてください!レイ」

「ぎゃ!ななな、何?!敵襲??」

「いや、違う違う。全員分の証明書が必要らしい」

因みにググに荷物中に隠れている。

「ここからは密林地域になりますね」

「ああ、幸い最低限の道は開けているらしい」

そこから何時間を運転を続けた。

栖都とゆいの顔から疲労の色が見えてくる。

ゆらゆらと顔に落ちた木漏れ日はやけに眠気を誘うものだ。

「ごめん、ちょっと運転変わってもらえますか」

「オッケー、あんたも少し寝な」

「ありがと」

エンジン音がうるさいが、揺らされながら車内の天井を眺めた。

ゆいの金色なツインテールが少し眩しい……

緑で青い…海?

ああ、懐かしい景色だ。

あの海と近い色をした髪の少女が背伸びしている。

どうするかな?ゆっくり歩いて挨拶する?少し驚かしてみる?

暖かいを通り越して、少し痛い日差しが周りに広げて。

波を打つ音がその暑さを和らぐ。

活気の良い、夏の気温だ。

「しいな?」

彼女の背中がとても親切に感じる。

最近しいなちゃんの姿が見過ぎたかもしれない。

彼女が自分の帰りを待っているのだろうか?

それにしても、何かを忘れた気がする…何なんだろう…

「…おき…」

「しいな?」

「栖都さん!起きて!て、敵襲!敵襲が来た!」

「え?ちょ、ちょっとま…ググ、これ持ってて、あとはわかるよね!」

ゆいはすでに起きていて、煙幕弾をググに握らせた。

トラックは止まることなく木々の間を縫うように走っている。

状況をうまく掴んでいない、しかしここは限界まで走らせるしかない。

「拠点まであとどのぐらい?」

「わからない。襲撃で少し道がズレた気がする」

最悪だ。

「撃たれている気配はないな、撒きましたか?」

「わからない…数が多いわけではないから、車じゃなくって、歩行してる…らしい」

「あ、歩行か…それにしても、レイの運転がすごいな」

「は、はは…だてにバイク走ってないからな」

「姉貴と呼ばせてください」

「いやだよ!」

冗談はせておき、道を修正する必要があるな…いや

「もう拠点に近いかもな…よし、止まって、ここに敵がいるとまずいかもしれないから、拠点から増援を呼んでおきましょう」

「ええ、こちらの茂みに隠しとく?」

「いいと思ます、僕は少し大きめ葉っぱとかを集めときますね、ググも手伝って」

「はい!」

怖かった…

さきすれ違った人はググにとってどうなんだろう?同胞…とは違うね。

少なくとも今はお互いは手伝い合い関係であり続けたい。

「なぁ、ググってこのあたりの地理はわかる?」

「少し」

「私たちは今ここにいる、わかる?こっちに行くのはどうすれいい?」

トラックを隠して、僕らは最低限の荷物を持って救援を請け負うことにした。

「こっち」

彼女の話に従い、栖都たちは密林を樹々の間を縫ってトラックの場所から離れた。

その小さな背中は夢の中で会ったしいなに重なった。

思うところはあるが、このことも大して心に留めていなかった。

もしかして敵の偵察兵と鉢合うかもしれないので、空気が張り詰めている。

彼女もまだ小さいこともあって、必要以上に心配している。

いつかググにもあの綺麗な海を見せたい。

しばらく経って、心配をよそに彼女は確かに私たちを目的地に導いてくれた。

そして意外な再会を叶った。

「ああ!あんた、あの時の…」

ギャングの大男だ。

「お前か!僕のき…財産をパクろうとしたあの時の」

「ああ?誰だあんた?パクるって…人聞き悪い。いや、今はこう言うこと言う場合じゃない、撤退だ!撤退するぞ!」

「へ?撤退ってどう言うこと?!物資はまだ…」

「物資?!そいつはありがたい!」

草の茂みからもう一人の声が聞こえた、同じくギャングの細身の男だ。

この二人も運が良かったなのか、それとも思ったよりはるかに戦線が広くないと言うことなのか?

「物資をできるだけ持って、撤退するぞ!」

彼から一番聞きたくない情報が出てきた。

「前線が崩壊した!化け物みたい連中がいるのよ!」

悟教授の話を思い出した。

最悪の状況が現実になったのか?

卵付きたちが、軍事利用されることが。

「え?え?今どうなってるのよ!物資を送り届かないと、あたしたちは命令違反になるじゃ…」

「わからない、多分だけどもう送り届ける場所がもう…」

「じゃ、戻れば…」

「嬢ちゃん、それも難しい話になるぜ」

「…あ!」

栖都は思い出した。

来る時に会ったあのグループだ。

「…このままでは戻れませんね」

「ええ?!じゃどうしろって言うのよ」

レイは泣きそうな喋り方でそう言い出した。

この時栖都も覚悟を決める時が来たと気づいた。

ここへ来て1週と少しでもう、生きて帰ることすら難しくなったってことを。


大男の名前はたけし、細身の男はかいと。

彼らの話が本当だと言う確信はないが、近くで視野のいい開け地があり、そこからでもわかるように、前線の方向から黒い煙が上がっている。

到底確認しに行く勇気もなく、僕らは戦場からの逃亡を余儀なくされた。

そして、この先行く場所も安全かどうかもわからない。

焚き火はできないので、木々の合間の月光と蛍光ランプが唯一の光源となる。

「何を書いてるの?」

「あ、ゆいさん。ただの日記ですよ」

「私たち、本当に帰れるのかな」

「これも死亡フラグになるから、やめなさい」

「へ〜い、おじさんもゲームやるんだ」

「おじさん…か」

いつの間にか、もうこう呼ばれてもおかしくない歳か。

「あ、ごめん」

「別にいいよ、そんな歳ですし」

「実は最初は弱々しい同い年の男性に見えるだから、私二人とも大事にしなかったよ」

「それはマジで助かった」

「あ、もう敬語しなくってもいいよ、水臭いし」

焚き火はできないのは、いつどこに敵た居るかはわからないから、みんな冷たい缶詰で我慢している。

もう随分前線から離れた、道なる道もなくなってゆっくり動かしないといけなくなった。

補給車両は今の生命線だ。

幸い物資の中には燃料、食料品、武器や弾薬とその他色々入っている。

「あなたはどうしてここに徴兵されたの?」

「色々あって、戒厳だと知らずに捕まったな」

「そんな感じなんだ、私とレイちゃんは収容所から」

「そんなところからも徴兵を?」

「本当本当、ありえないよね」

「追い詰められているってことか…」

別にそれは自分の国のことだけじゃない、どこでも同じってことかもしれない。

帰ったら…帰ったとして、僕がこれから何をすればよいのだろう?

よくない変化は前から続いている、そしてずっと悪い方向へと転がり続いている。

僕が望んだそのちっぽけな幸せは、まだ作れのか?

魔法書の空いた場所を日記がわりに使っている。

今の考えで、僕は少し怖気付いた。

「私にはもう、待ってくれる人が居ないから、楽でいい」

「それって…じゃ、これからどうするつもりなの?」

「おお、なになに?気になる?」

「教えてくれるか?」

「私は漫画家になりたい、描きたい内容はないけど、誰かの心を動かす物語を作りたい」

「…」

「何だよ!ガキ臭いとか言いたいなら、言ったら?!」

「いや、とても素敵な、とてもいい夢だ…」

ないなら作れ、か。

本当にいい“幸せ”だ。

自分で自分の幸せを目指すことが僕にはできなかったことだ。

「あ、ありがと…こんなに褒められたのは、初めてかも」

少し頬を赤らめて、彼女は僕の日記を見て、こう言った。

「なぁ、どうせ日記を残すなら、少し私に貸してくれない?」

「お、おお。別にいいよ」

僕は特に書きたいものもないので、前から定まっているありふれた人生の目標とか、ここまで起きたこととか。

…それでも、みられると思うと恥ずかしいな。

「私があんたの日記を沿って漫画を描いてみるね」

「ええ?できるの?」

「任せて〜!」

何時間後

「できた!あ、今はまだみないでくださいね」

「え?なんで?」

魔法書を返してくれた。

「あなたの日記が足りないの!これからも描くから、ちゃんと書いてね!」

ああ、参ったね、これではサボれないな。

「ああ、頑張ってみるよ」

「じゃ、これからもよろしくね」

身を返して、彼女は表情を見せてくれなかった。

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