第一章 第8話 新の一歩
昨夜の隕石は安藤さんの家に直撃しなかった。
落ちたのは家の側の小さな公園だった。
そのおかげで死者は出なかったが、鼓膜が破った軽傷者は少なからず居た。
まぁ、栖都にとってそれは安眠できるほどの被害であった。
しかし、昨日は一睡もできなかった。
今は隣の町への電車に乗っている。
「これをどうすればいいのか…」
しいなちゃん(彼女の自称)にこれのことについて聞き出したが、本当にただの金の塊だった。
そして、一晩これを売り捌く場所について調べてみた。
そのおかげででかいクマもできた。
頭の中にしいなちゃんが翼を生やしながら飛び回っている…
やはり一日経ってからでもよくない?こいつを売り捌くのを。
金の塊は今カバンの中に入れている。
かなり重たいが、ギリギリ持ち運べる。
怪しまれることのないようにわざわざ朝一の人が少ない電車に乗った。
僕だって社会に馴染むまで色々頑張っているんだから。
『でもいいの?悟に話さなくて』
昨日のしいなが残した言葉が頭によぎった。
彼女はメッセージを残せる役割的な存在だと思っていたが、会話もちゃんと成り立っている。
物凄く嬉しい反面、物凄く悩む。
彼女が本物でしたら、実は何らかの制限で僕だけに会話できるのか?
まぁ、目処はついたけど、あの「魔法書」よね。
それでも、実はお父さんと会話したいのに、僕を経由しないとできない?
…だったら、厄介極まりない。
悟教授という人はそれなりに長い付き合いのつもりだが、一番根拠のない話は聞き入れないタイプだ。
でも魔法まで使ってくれるのに、なんで直接話しかけないんだ?
そこは魔法の神秘で片づけられそうだが、本当に会いたいなら彼女から話してくれるはずだ。
そして、彼女は本当にしいななのか?
もしかして、彼女を似せた人工知能?偽物?
周りが変わりすぎているほど、変化が起きてしまうのに、僕の悩みは自分の脳内でしか成立しないのはかなりストレスを溜まる。
そんなことを考えている中、駅に着いた。
まだ朝早くなので周りは薄い霧が漂っている。
そして人気もいない。
大きな街道の側に、栖都は一人で歩いている。
目指す場所は貴金属を買収する店だ。
正規の店はダメだ、大量な税金を払う羽目になるしと記録も残る。
このインゴット一つは個人で捌ける限界を超えている。
加工の仕方も奇妙で、とても綺麗な立方体になってるせいで余計に怪しまれるだろう。
「まじで空から落ちたような富だな、これや…うん…」
最初の助言を思い出した。
「そらに気をつけろう、か」
駅を降りて、雨除けの天井の外を見てみると、今でも雨を降りそうだ。
「雨のことじゃないよね?」
今日だけ酸でも降らせる気?
流石にないと思いたい。
そして、気を取り直して駅を出た。
ひとりで遠く行くのも悪い気分じゃない。
ここでしか気づけないこともある。
この町から市外に行く電車はそれぞれ一本しかなかったが、ここのホームはとても寂しい。
昔ではありえないことだ。
だってそこそこでかい町なのに、市外へ行く電車は一本だけ。
「悟教授の言った通りになったな」
昔、彼がまだ家にいる時、たまに雑談をしていた。
今回のような災害は残念ながら、人間全体を団結にするのではなく、人をより小さなグループにした。
栖都のような人々の目に入らない人でも優しくされたのは、栖都に対してではなく、栖都の親に対してだった。
「…早く帰ろうか、雨が降れなけれいいんだが」
目的地は駅まで20分徒歩でつける。
GPSは災害後全部死んだけど、自宅を探ってみれば古いマップと電話帳が残っていた。
このあたりにはそいう老舗いっぱいあるらしいが、この御世辞ではまだやっているのかな?
それにしても…この町静かすぎないか?
始発で来たけど、今はもう9時だぞ。
開店準備の店もいないし、道端に歩く人もいない。
…早く終わらせて帰ろう。
雨が降りそうで降らない天気は多分一日中続くのだろう。
「ここのはずなんだが、流石にもういないのか…」
地図にある店は惣菜屋になった。
「どうしようかな…うん?」
隣の建物の4階は明かりが着いている。
もう大分すり減っているけど、質屋の看板がまだ残している。
「一か八かだな…お邪魔します!」
棚はあるが、商品は置いていない。
営業しているように見えないほど埃だらけで、若い店員さんが昼寝を取っている。
…今の時間だと二度寝か?
それでも営業中ではあるようだ。
「ああ…いらしゃい」
「こ、これ売りたいです」
こいう時はどうすればいいのかわからない、とりあえず素早く済ませよう。
「どれどれ…おいおい、とんでもないもの持ってきたな…!」
若いけど、見る目が確かのようだ。
「どれぐらい売れますか?」
「いやいや、急にこんなもの持ち込んだら、すぐには無理だろう」
だよねー
貴金属専門じゃあるまいし。
やはり今日諦めるかな?
「まぁ、でもある程度査定時間と資金の調達の時間をもらっても大丈夫でしたら…おそらく八千万はくだらないだろう」
は、八千万?!
頭の中によぎったのは最近触った一番身近なもののゲーム機である。
そして、これまでしいなと一緒にクリアした数々のゲームを合わせて…1000セット余裕で買える。
…やはりわからん、概念がわからん。
本当にいいのか?魔法でポンッと出したものが、こんなに?
「わかりました…査定が終わるまで、ここに居て大丈夫ですか?」
「…ああ、もんちろんとも。何せかなりの大金だから、不安になるよね。ご自由にどうぞ」
と言われたものの、店内には座る場所がない。
まだ早いが、昼飯でも済ませようと決めて、近くに空いてる店を探すことにした。
やはりと言うべきか、大通りが全くと言っていいほど人がいない。
居酒屋だらけの狭い道も今やゴーストタンみたいになっている。
「酒か」
大金は入る。
それなら利用するなり、堕落するなり、しばらくは大丈夫だ。
「店でもやってみるか」
どれぐらいかかるかわからないけど、そこそこいい場所に店を買って、店主になってみるのは?悪くないかも。
しいなの料理は素晴らしいものだ。
一気買いなら家賃も気にしなくていいし、店経営で稼いだ金の大体が支配できる。
いいね。
自分から人と関わらなくても人が集まってくる。
いつか結婚できる人と出会えるかもしれない。
「おい!」
僕は幸せのためにもう少し頑張ってみるか。
「おい!ってば!」
「うん?僕のことですか?」
「ふんふん!あんた、悪いのは頭だけじゃないみたいだね!耳も効かないのかね?」
あの無駄な元気から少しの懐かしさを感じながら少しイラッと来た。
何だこのガキ。
背後から呼び止めて来たのは一人の少女である。
年は小学生の低学年ぐらいかな?
変な髪色をしていて、髪をツインテールを結んでいる。
知らない子供だ。
「…失礼します」
「お、おい!行くんじゃないのよ!ふんふん!あんたたち出番はよ!」
彼女が何かしらの合図なのか、2回拍手をしたら、狭い通りから大男が何人か出てきた。
え?なに??
「ど、どう言うことですか?」
「ふんふん!バーカバーか!生意気の態度をとるだから、これから酷いお仕置きを…」
「お嬢、なんでまたさきに行かれたのですか!危ないと、何度も何度も…」
追って来たのは、さっきの店員さんだ。
「うるさい!あんたわたしの親なのかよ!」
「あんたの親に頼まれたんだよ、従わないと言いつけるぞ!」
「ぐぬぬ…ごめんなさい」
…何の茶番だ?
目の前には一人の大男が立ち塞がっている。
「あの金塊の所有者と“話し合いがしたい”とのことで。一緒に来てもらおうと助かる」
終わった。
彼が話している間、彼が着込んでいるスーツを見た。
裏社会の印が示してある胸章がついている。
あの二人との関係がわからないが、要人であることがわかった。
…人質を取ってみるか?
魔法は使い慣れていない、適当に使って運任せするのか?
先日のことを思い出した。
今回また隕石レベルのものが出たら、僕も一緒に死ぬかもしれない。
それに裏社会とは言え、あの二人は子供だ。寝覚めが悪い。
悩むうちに状況が一変した。
「おい!お前らは誰だ、なにをしに…うっ!」
「なにがあった?!お前らは…かっ!」
そして、気づいたら。
大男ともう一人の細身の男が地面に伏せて、抑えられている。
周りは軍服を着た人たちに囲まれている。
この人たち、軍隊の人か?た、助かったのか?
警察ではないことに疑問を持ちながら、密かに安心した。
しかし、事態の異常性を気付いてなかった。
「手をあげろう」
「え?っはい!」
いかついわけではない、威厳はあるわけでもない、ごく一般の人に見える軍人が無愛想の口調でこちらを命令を下した。
「何のつもりだ?戒厳令を見なかったか?君はこの町の人じゃないのか?」
「え、あ…はい、隣町のもので、仕事を探しにこのまちへ」
疑わないように嘘を交じって言った、これからの予定的に間違いではないけど。
「どのみち君たちは運がない。戒厳令への無視によって、成人年齢を超えた男性はこっちに来てもらおう」
え?え?なに、なにこれ?!
「今は戦時中だ!国に忠誠を示す時が来たようだな!」
「どういうことだ?!貴様らはポリ公じゃねぇのかよ!」
ギャングの大男はまだ事態を掴めきれていないようだ。
「拒否権はない。非常事態での反逆行為は全て国家反逆罪とみなす。」
「…!」
後ろで待機している人たちは銃を構えた。
「うぅ…ううぅあぁぁ…たけにぃ…いや…!」
意識の隙間に、女の子の泣き声とそれを宥める少年の声が聞こえた。
どこか他人事のように感じたことが、本当に自分の身に起きていると気づいた。
「大人しくなったか?じゃ、ついて来てもらおうか。お前らも気を引き締めろう!帰りまでは遠足だ!」
金塊も、店も、僕の過去の一切も関係なく、もっと大きなことに揺さぶられてる。
そしてちょうどこの日で30歳を迎えた彼は、魔法使いとともにーー軍人になった。
軍用トラックに乗せられた彼らはとても静かであった。
逃げようとする知らない別人が射殺されたのを見て、諦めたかもしれない。
持ち物はチェックされ、栖都のノートは特にチェックしてなかった。
武器出ないなら大丈夫らしい。
ちなみに、ギャングの人たちは銃やナイフも持っていなかった、伸縮警棒みたいなものはあるが、意外と武闘派ではなかった。
彼らの話はどうでもいい、話によると配属先はランダムで、会うことがないだろう。
『金塊、パクられちゃったね』
『天気が悪い時は、この時のことだろう?もっと詳しく教えればよかった』
『ごめんって、』
『話できる人が居てよかったよ』
心の中だけでも会話ができるようだ。
トラックに揺さぶられて思ったのは、今雨降っているなっと。
僕は弱い人間だ。
今は強い魔法より、ただ知っている誰かと話をして欲しかった。
だから、雨の魔法を使った。
今だと、多分これしか使い道がないのだろう。
『安心するのは早くないっすか?戦場だよ?にんちゃん生き残れる自信ある?』
『……骨届く人いなかったなぁ、やはり金より結婚するべきだったか』
『飛ばし過ぎじゃない?!せめて生きて帰ることね!絶対だよ!』
『うん、死ぬのは怖いから』
『あなたならできるよ!魔法があるじゃない!』
『使える魔法があればね』
『大丈夫よ!あなたならできるよ!』
やけに心配されたな…僕はみっともないな。
『そろそろ行くね!また会うよ!絶対よ!死なないでよ!そして、友達も見つかる…といいね!』
『ああ、おかんかよ、お前。それぐらいは、僕だって…』
消えちゃった。
軍隊の食堂は意外と荒くれ者が多くって、まるで海外映画に映る刑務所の食堂みたいだ。
徴兵のせいか、ある程度質を諦めているかもしれない。
とてもうるさくて、隅っこでこっそりしいなちゃんとの会話もできる。
やはり脳内じゃなくて、普通に話がしたい。
四人、八人部屋が多くて、こうじゃないと話す機会もなかった。
荒くれ者が多くても、衛生面と規律はきちんとしている…させられている。
「成島栖都、30歳、無職。特技は調理と我慢か」
「はい」
「スタミナはあるが、身体能力は女子供レベルで、持病なし」
「…はい」
「生まれ持ちか、仕方がない」
海外遠征までは、基礎訓練と身体測定のため2ヶ月の訓練期間はある。
…それだけで、もう死にかけた栖都はいた。
いや、ガチの話だ。
長距離走は何とかこなしたが、力訓練で一時心肺停止なのは初めて見たもので、教官も扱いに悩まされた。
「後方に所属となるけど、場合によっては前方への派遣もあり。詳しい内容は現場に任せる、以上!次!」
強制とはいえ、給料はある、福利厚生もある。
しかし、栖都みたいな人も戦場いけないといけないほど、確実に戦況が追い詰められている。
生きて貰う人はどれぐらいいるのだろうか…
強制徴兵は法律上で、戦死としても家族には金が入らないが、彼が戦時中に貰った給料は届くらしい。
「どう気付かれずに使う、のか」
次の魔法はとても単純だ。
火だ。
栖都は軍用輸送機に乗り込んだ。
2ヶ月の間で、疲れ果てるまでの間に彼は色々考えた。
悟教授のこと、近所のおばあちゃんのこと…あの綺麗な海のこと。
この2ヶ月でも魔法を使ってた。
自分の思い付きから魔法は使えるかどうかのテストだ。
そして、それはできないようだ。
魔法は全てこの本、この本に乗せている模様経由しないと起こされない。
異常現象そのものだ。
それでもこれは僕の命綱だ。
2ヶ月の訓練の後、栖都は戦場へ向わなければならない。
やり残したことと見届けたいことがたくさんある。
あの何処かあどけなさが残している顔を思い出して…残念ながら、今はそれに泣くほどの余裕を、彼が持ち合わせていない。
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