わたし達が幸せに成ればオールオッケーでしょ♪


「ねえ、ハル」

「なぁに? リーヤ」

「これからどうしよっか?」


 比較的安全な採集任務だけでなく、討伐任務を請け負えるようになった頃、リーヤが聞いた。


「そうだねー……回復職をスカウトでもして、パーティー組むとか?」

「え? 誰か入れるの? 大丈夫?」

「うん。盗賊と戦士だけって、心許ないでしょ」


 ちなみに、わたしが盗賊でリーヤが戦士だ。リーヤは回復や解毒の魔術は使えないが、身体強化と攻撃魔術を使える魔法剣士タイプ。わたしは、補助系の魔術を使える盗賊として登録した。戦士よりも、盗賊の方が『暗殺者』には近い。


 そして、なんとびっくり! わたし・・・は解毒魔術と回復魔術に加え、デバフまでカンストしていた。デバフは、オッサン共に入念に呪いを刻んだ成果かな? やったね! ちなみに、バフの方は普通。これからバンバン使って上げなきゃ。


「ハルって確か、回復魔術使えたよね?」

「まあね。でも、わたしも回復そっちが専門ってワケじゃないからさ。やっぱり、いざというときのために、回復職は大事でしょ? 生存率が上がる」

「そっか。わかった」


 一応、あの偽指令書や仲間割れの裏工作をしているとは言え、追っ手が掛けられる可能性は十分ある。もしリーヤと分かれなきゃいけなくなったときに、彼女に回復職が一緒に付いててくれると、わたし・・・が安心できる。


 それに・・・ぶっちゃけ、これから起こる世界に蔓延はびこる瘴気問題もある。


 このままわたし・・・達が冒険者として行動するにしろ、世界に瘴気とやらが満ちると色々まずいことが起こって、世界全体が人間にとって住み難くなるらしい。なら、学園が始まる前に聖女予定のヒロインちゃんをビシバシ鍛えて、さっさと聖女にした方がいいんじゃね? と、思ってしまった。


 少なくとも、学園で攻略対象共と恋愛ごっこなんかをしているより、世界に平穏はもたらされる……ときが早まったりする筈。そして、ヒロインちゃんも暗殺の危機やら権力争いなんかからは遠ざけられるから、彼女の死亡フラグもある程度は折れるだろうし。そう悪いことでもないと思う。


 まぁ、ヒロインちゃんがやべぇ電波系だったり、頭お花畑な感じの残念転生者だったりする場合は、そのまま放っといてこのままリーヤと二人で旅を続けよう。……決して、『パーティークラッシャー』と称されているわたし・・・達と一緒に、パーティーを組みたいという人が見付からなかったからではない。


 いいもん。リーヤと一緒に育てるから。


 というワケで、まだ学園入学前のヒロインちゃんを探し出して、しばし観察した結果――――多分大丈夫そうだと思って、スカウトすることにした。


「ヘイ、そこの彼女。わたし達と一緒にパーティー組まない? 今、回復職募集中なんだよねー? 素人でも全然OK。一緒に一攫千金目指さない?」


 な~んて適当なこと言って、まだ村娘だったバリバリ素人なヒロインちゃんをスカウトナンパし、言いくるめてわたし・・・達のパーティーメンバーに加えた。


 それから、冒険者仲間として。そして、『わたし』達じゃない別の暗殺者が来ても大丈夫なようにと、心を鬼にしてヒロインちゃんをビシバシ鍛えたら――――


「ギャーっ!? ハルさんの鬼畜っ! 鬼っ! 悪魔~っ! イ~ヤ~っ、リーヤさん助けて~っ!?」


 な~んてギャン泣きして文句を言いながらも、見事聖女として覚醒。そして、聖女になった彼女をリーヤと二人で守りつつ、軽~く世界を救っちまったぜ☆


 わたし・・・としては、あの学園に通って恋愛ごっこにうつつを抜かして攻略対象共他力本願でいた甘ったれヒロインなんかより、冒険者として揉まれて精悍になった、今の戦うヒロインちゃん! の方が断然好きだね♪


 武器があれば、筋骨隆々ゴリマッチョなミノタウロスと殴り合えるド突き合いできるくらいに動けて、バイタリティー溢れ捲る回復職! に鍛え上げたら、鬼やら悪魔呼ばわりされて、多分嫌われちゃったけどっ☆


 少~し泣かし過ぎたかな? と思わないでもないけど。ま、その分ヒロインちゃんは、ちょっとやそっとのことじゃ死ななくなったし。わたしが鬼で悪魔な分、リーヤが甘やかして、二人が仲良くなったから結果オーライ♪


 ちなみに、わたしとリーヤはカンスト最上級聖女現ヒロインちゃんの補助無しでも、小型のドラゴン程度となら素手のタイマンでド突き合いができる。いやぁ、強くなったもんだぜ! 多分、メインの攻略対象共より今のわたし・・・達のが強いんじゃないかな?


 そして――――アレだ。世界を救ってから、ふと思ってしまったことがある。


 わたし・・・、このゲームのファンディスク……わたし・・・がプレイしたかったやつの内容を知らないんだよね。もしかして、『カナリア・ハラリエル』がメインだというファンディスクのシナリオが、聖女に覚醒したヒロインちゃんと世界を救う……だなんてことはないよね? と。


 ちなみに、『わたし』の性別は実は男だったりする。いやぁ、自分が男だって判明して、驚いたのなんの。前世では女だったし? んで、『リーヤ』は正真正銘の女の子だ。もしかすると、主人公選択で男女の性別を選べるようになっていて、選んだ方じゃない方がプロローグで死ぬ……殺されてしまい、プレイヤーに選ばれた主人公が『カナリア・ハラリエル』として、聖女ちゃんと一緒に世界を救う旅をしていたのでは……? なんてことを、勘繰ってしまう。


 なにせ、『カナリア・ハラリエル』は聖女を付け狙う暗殺者だ。ヒロインのお助けキャラ且つ、親友としてのカナリア嬢の出番は学園編で終了。聖女覚醒編のRPGパートでは、強制エンカウトのゲームオーバー……互いの命を懸けたバトルイベントはあっても、ヒロインと一緒に行動することが無かったキャラ。


 そして、ゲーム内最難関隠しキャラである『カナリア・ハラリエル』の生存する唯一のルートは、通称・・『百合エンド』とされている。が、実は二人・・いた『カナリア・ハラリエル』の性別は公式に(わたし・・・が知る限りで)は、明言されていない。


 ちなみに、通称『百合エンド』こと正式名称『警告の天使ハラリエルの忠誠』エンドは、『カナリア・ハラリエル』を攻略した時点でゲームクリア。やはり、ヒロインと一緒に旅をする場面は描かれていなかった。実質、暗殺者との強制タイマンエンカウントはラスボス戦より大変なバトルだった。バフ無しだと紙装甲な回復職が、一人で攻撃力の高い暗殺者とタイマンなんて、普通に無理ゲーだ。


 けれど、ゲームが発売されてみると、『カナリア・ハラリエル』はメイン攻略キャラに次ぐ人気キャラで、ファンディスクが製作されることになった。それで……丁度二人でカナリア嬢を演じているという設定だったから、男女別の主人公でシナリオを作って、美味しいとこ取り! だったりとか?


 どちらにせよ、元々二人・・いた『カナリア・ハラリエル』が、わたし・・・とリーヤの両方共に、揃って生存している。その段階で、既に『ゲームシナリオ』は壊れている……筈だ。


 な~んて――――世界を救った今となっちゃ、どうでもいいことだけどっ☆


 あとは、わたし達が幸せに成ればオールオッケーでしょ♪

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裏切りの暗殺者(当て馬兼最難関隠しキャラ)は、死にたくないしヒロインに忠誠も誓いたくない 月白ヤトヒコ @YATO-HIKO

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