というワケで、ゲームシナリオをぶっ壊そう。


 身体動いてよかった~っ!?


 というか、思ったよりも『わたし』って強い? まぁ、ある意味、このゲームの終盤までず~っとヒロインと攻略対象共のパーティーをてこずらせてくれる敵ではあるから、結構強いのは知ってたけど。


 こうもあっさりこのオッサン共を倒せちゃうと・・・なんだかなぁ、という気分で胸がいっぱいになる。こんなに簡単なことだったのか、と。


 このオッサン共は、所謂ゲームの黒幕……または、黒幕に近しい存在だろう。それが、こうも呆気無く倒れるのを見ちゃうと、少々の空しさを感じる。


 まぁ、わたし・・・のそんな感傷は些細なことだ。


 そんなことより、倒れている彼女……ノインの息を確認する。微かだけど、呼吸あり。脈もある。これなら……


解毒デトフィシケイション


 と、解毒を施す。


「……っ、はぁ……」


 弱かった呼吸の音が少し大きくなった。これなら、大丈夫かもしれない。


 まぁ、元々『カナリア・ハラリエル』役は二人いる……という設定だったし。任務中のアリバイ工作の為、『わたし』の他にももう一人、『予備のカナリア』を演じる暗殺者がいて。もしかしたらノインがその予備として扱われている『もう一人のカナリア』なんじゃないかな? と、思っていた。


 そして、通称『百合ルート』で聖女……ヒロインに忠誠を誓う暗殺者は一人・・だった。二人の『カナリア・ハラリエル』のうちの一人はおそらくヒロイン達とのバトルで死んで、もう片方・・・・の『カナリア』が生き残る……というのが公式シナリオ。


 まぁ、アレだな。そんな『シナリオ』はごめんだ。折角なので、彼女……ノインも、わたし・・・と一緒に生き残ってもらおうと思う。


 というワケで、ゲームシナリオをぶっ壊そう。


 とりあえず、このオッサン共をサクッと殺っちゃうか。


 と、思ったけど。う~ん……どうしよ?


 頭と、ナンバー2を殺したところで、闇組織が簡単に潰れそうにないことに気付いた。そのまま、後継? となる幹部が繰り上がりでトップに成り変わるだけだし。


 なんだったら、意志決定のできないままのリーダーがいた方が、組織というものは身動きが取り難くなる。頭と、ナンバー2が意思決定が難しい状況。けれど生きていることが確認できる状態だと、後継争いなどで内部分裂をして組織が瓦解し易くなる……かもしれない。


 よし、このオッサン共の身体の自由を奪い、意志疎通の難しい状態にしよう。


 どうする……のかを、躊躇ためらったのは一瞬。手足の腱を切ったり、神経などを損傷させたり、頭部へ損傷を負わせたりしたとして、だ。この世界には治癒魔術という便利な治療方法がある。


 神経などの損傷を治せるような人は通常、かなり稀少かもしれないが……なにせ身近に聖女(予定)のヒロインが存在したりする。治せる人がいないと考えるのは早計だ。外道共なら、強力な治癒魔術を使える人を攫って無理矢理治療させたりもするだろう。


 ならば、強力な治癒魔術師でも治療困難な程の障害を与えてやればいい。


 そう、例えば……複合毒など。


 複数種類の毒を混ぜ、解毒や治療が困難な毒を作り上げて暗殺に使用すると、毒殺の確率は格段に上がる。複合毒であれば、とある毒には解毒作用のある薬が別の毒には効かない。または、別の毒の毒性を高めてしまう……などなど、薬や毒自体の効果を高めたり、打ち消し合ったりと、複雑な効果や様々な副作用が出たりする。それに加え、性別や体重、個人の体質などによっては使用できない薬なども存在し、解毒剤の調合自体が困難になる。


 基本的には治癒魔術師の腕によるが、おおよその毒に効果があるのが解毒魔術だ。しかし、中には魔術を掛けることで……というよりも、魔力に反応して毒性が増すというかなりマイナーな毒だって存在している。その毒は治癒魔術師にはお手上げ。下手に解毒や治癒の魔術を掛けると患者の寿命を縮めてしまう。無論、複合毒に組み込むことを真っ先に決めた、希少でお高く、非常にヤバい毒だ。


 故に、毒を食らってしまった場合は、治癒魔術を掛けるよりも先にまずは解毒をするのがセオリーとなっている。治癒で代謝を上げたり血流を上昇させると、その分毒が早く回っちゃうからね。偶~に、そのことを知らないで毒を悪化させ、治療を失敗するというマヌケな話も聞かれるが。


 そして、解毒や治癒が魔術が掛けられない毒の場合、医学的……物理的に解毒剤を作らなくてはいけない。が、その解毒剤の作成を困難にするのが、複数種類の毒を混ぜた複合毒という存在。


 複合毒の解析をして解毒するのが先か、危険を承知で解毒魔術を使用して他の毒を弱めるか……という、命懸けの選択を迫られることになる。


 これは、暗殺者として教育された『わたし』の知識。


 というワケで、オリジナルな複合毒を作成してみよー!


 まずは、起きられると困るのでオッサン共に睡眠薬を打って昏睡させる。多少多めに打っとくか。死なれるのは困るが、コイツらに後遺症が残っても全く構わん。


 軽~く部屋を物色して・・・発見した例の、解毒魔術で毒性の強くなる希少な毒物を使い、調合を開始。


 意識の混濁、衰弱、身体機能の低下、循環器系へのダメージ、麻痺、永続的な倦怠感、緩やかな内臓の壊死……などなど、パパっと解毒困難つ、実にえっぐい効果の複合毒を作り上げた。


 うむ。我ながら、普通に解毒とか無理な気がする。覚醒してガンガンレベル上げた聖女なら辛うじてイケるかも? という感じのガチやべぇ毒だ。まぁ、現時点ではヒロインは聖女に覚醒していないので、これを解毒できる人がいる可能性は、ほぼ皆無と断じていいだろう。


 オマケとして、複合毒と共に魔力低下、体力低下、衰弱、意識混濁、混乱の呪いをオッサン共の身体へ刻み込む。闇組織のトップとナンバー2だ。結構頑丈な筈。これくらい徹底的にやっても、しばらくは死なないだろう。


 むしろ、長く苦しめばいい・・・


 なんて思いながら、手に付いたオッサン共の血を拭う。なんだか、ノリノリでえぐいことをしてしまったなぁ。もしかしたら、『わたし』が殺されてしまったことに、そして彼女……ノインを殺され掛けたことに、わたし・・・は激怒しているのかもしれない。


 さて、これからどうするか? が、当面の問題だ。組織のトップとナンバー2にここまでのことをしたのだ。まずは、安全なとこに逃げないとね~?


 でも、その前に・・・

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