第4話 一途でポンコツなツンデレ令嬢


「怒り狂ってなどおりません! 恥ずかしくて嬉しくて号泣しながら叫び出しそうになるのを堪えていただけです!」


 まさかの真実に開いた口が塞がらないギル。


 包み隠さず話すうちに開き直ったのか、先程までの羞恥はどこへやら、得意満面でフンと鼻を鳴らずイザベラの姿に、駄目だもう我慢出来ないとパメラがお腹を抱えて笑い出した。


「学園でイザベラ様に声を掛けられた時は、鋭い眼光に震えあがりましたが、蓋を開けるとなんてことはない、片思いをこじらせた可愛らしい御令嬢……さらにはクッキーを届けるだけでバイト代を貰えると言うのだから、平民の私にとってはありがたい限りですよ」


 ええっ、あれアルバイトだったの!?


 勉学に支障が出ない割の良いアルバイトはないかと探すパメラに、「それならわたくしの手足となって動くのはいかが?」と勧誘したイザベラ。

 カミングアウトが止まらない二人に、最早二の句が告げないギル。


「顔合わせの時は、あああギル様が! ギル様がわたくしの婚約者になってくださるなんて、天にも昇る幸せええぇええ! と、泣き叫びそうになってしまって」


 はにかみながら、潤んだ目を向けるイザベラに、「そ、そうですか」と口元を抑え思わず耳まで赤くなるギル。


 あれ、なんだろう、いつも睨まれてばかりだったからか、イザベラの照れる姿が新鮮で、すごく可愛く見える……。

 いやそもそもそんな理由だとは思わなかったし、まぁなんと言うか……嬉しい。


 騎士科は御令嬢達に人気があり、それなりにモテるのだが、方法はともかく、こんなに真っ直ぐに愛情をぶつけられるのは初めての事である。


「と、いう訳で、このシャツはわたくしのもの。お返しするわけにはいきません」


 少し冷静さを取り戻したのか、ほほほと高笑いを始めたイザベラがどんな子なのか分かってきたギルは、それならばと組んでいた腕を解いた。


「……それであれば、あの、それではなく直接お顔を埋められたら如何ですか?」


 騎士たるもの、全力で臨む相手には、全力で迎え撃つべし。

 そんなに頑張ってくれたなら、ここで応えねば男が廃る。


 はい、と手を広げると、イザベラがゴクリと息を呑む音が聞こえた。


 ……余裕な雰囲気を醸し出し、大人な男を装うが、実はギルも経験値不足。


 いつでも飛び込めるようスタンバイしたものの棒立ち状態。

 顔は赤らみ、目も泳いでいる。


「はい、どうぞ」


 待ってる自分が恥ずかしくなり、ほら早くと催促するや否や、イザベラがギルに向かって駆けてきた。


「きゃあぁぁギル様ぁぁぁッ……〇✕◇!」


 何かを泣き叫びながら、その胸に飛びつくイザベラ。


 思いがけず柔らかな身体にドギマギしながら、夢中で抱き着くその姿に、なにやら男として込み上げるものがあり、広げた腕の中に閉じ込めたくて堪らなくなる。


「だ、抱きしめてもいいですか?」


 ぐりぐりと顔を擦りつける可愛らしい様子に我慢出来なくなり、でも一応聞いてからにしようと問いかけると、イザベラは虚を衝かれたように動きを止めた。


「……え、駄目です。まだその段階ではありません」


 えええ、じゃあこれは一体どの段階なの!?

 まさかの拒否に、固まるギルと呆れる傍観者二名。


 ――こそこそと、何をしているのかと思いきや。


 青天霹靂、まさかの結末。


 幸せそうに胸元へ顔を埋めるイザベラを見遣り、手を上げたバンザイの姿勢のまま、ギルは口元を綻ばせ……そして、ぎゅうっと抱きしめた。


「きっ、きゃああああ!!」


 腕の中で叫び暴れる彼女が可笑しくて、自然と笑みが零れる。

 片思いをこじらせ、勘違いを撒き散らしながら暴走する公爵令嬢イザベラ。


 単純な自分に苦笑しつつ、不器用だけど一途な彼女を腕の中に、幸せな気持ちでギルは目を閉じた。



- FIN -

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