第21話 梨里杏

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 そんな声がして梨里杏りりあはスマホから顔を上げた。

 前に並んでいるのは近くの予備校に通う男子高校生たちだ。

 一人軽薄そうなのがいる。どこの高校だろう。

 彼が騒いでいるのはカウンターにびっくりするくらいの美少女がいたからだった。

 後ろの連れに向かって興奮と緊張がじったような顔を向けていた。

 梨里杏りりあは彼の視線から逃れるために連れの後ろに身を隠した。

 梨里杏だって可愛いんだからね。

 それよりすぐ後ろに平瀬ひらせ先生がいる。それもまた緊張するんですけど。

 軽薄男子は順番を変えてまでして美少女店員が待つレジについた。

 梨里杏は右のレジが空いたように見えたので行こうとしたら、前にもう一人並んでいる男子がいた。

 影が薄かったので見えなかったよ。

 待機しながら梨里杏は真ん中のレジを見た。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

 美少女店員はさすがだった。見事な営業スマイルで軽薄男子の相手をしている。

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

 何か紙切れを見せたのを梨里杏は見た。梨里杏は目が良かった。こそこそしているのは見逃さない。

「承知しました。お会計は六百円です」

 オーダーを終えた軽薄男子が梨里杏の方を向いた。

 ヤバイよ、ヤバイよ。見つかっちゃうよ、可愛い梨里杏が。

 しかし軽薄男子は梨里杏の姿が見えていないようだった。

 カウンターの向こうでは美少女店員が隣の店員にドリンクを揃えるように頼んでいた。

 頼まれた店員がいたずらっぽい笑みを浮かべたのを梨里杏は見逃さなかった。

 軽薄男子はカウンターに背中を向けて気どった様子で揃うのを待っていた。

 先に左のレジが空いたので梨里杏は軽薄男子と美少女店員を気にしながら空いたレジに向かった。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 軽薄男子がトレイを受け取り、替わりに平瀬が美少女店員の前に立った。

 梨里杏は横目で様子を窺った。

 美少女店員の笑顔が全然違った。

 営業スマイルじゃない。怪しい。

 後ろで「だよねー」という声を梨里杏は聞いた。「ん?」

 そうだよね、お前はお呼びでない、と梨里杏は思った。

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