第22話 女王様

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 男子高校生の声が店内に響いた。

 「当たりだ!」と叫んだ男子高校生が真ん中のレジに向かった。そこにとても美しい女子店員がいた。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

 男子高校生は軽薄そうな顔を封印して、緊張の面持ちで女子店員と向き合っていた。

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

 男子高校生が小さな紙切れを女子店員に見せた。

 そこに何か書かれているが、それがわかるのはその紙切れを目にする二人だけだった。

「承知しました。お会計は六百円です」

 女子店員は笑顔で会計金額を告げた。

 セットメニューが揃うまでの間、男子高校生はカウンターに手をおいて、せわしなく指をとんとんと打ちつけていた。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 女子店員に見送られ、男子高校生はトレイを受け取ってテーブル席へと移動していった。

 代わりにそのレジの前に立ったのが平瀬ひらせだった。

 女子店員は予備校の非常勤講師をつとめる平瀬の教え子でもあった。

 目を見開き、にっこりする女子店員の笑顔が眩しくて、平瀬はメニューに視線を落とした。

 ドリンクを何にするか考えるためだ。

 メニューには新商品として割引キャンペーン中の「ヒューストンバーガー」をお薦めするクイーンズサンドのマスコットキャラが描かれていた。女王様クイーンのデフォルメキャラだ。

 女王様クイーンと目があった気がして平瀬は身震いした。

 セットメニューが揃うまでの間、ちらちらとメニューを見遣るたびに平瀬と女王様クイーンは目が合った。

 落ち着かない理由が教え子の女子店員にあるのか女王様クイーンにあるのか平瀬はわからなくなっていた。

 トレイを受け取ってテーブル席につく。そして間もなく平瀬はドリンクがオーダーしたものと違うことに気づいた。

「……だよねー」

「ん?」

 男子高校生が叫ぶのを横目に平瀬はふたたびカウンターに向かった。

 そこに教え子の女子店員と女王様クイーンが笑顔で待ち構えていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る