第19話 矢沢

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 その声を聞いた矢沢やざわは、コーヒーをすすりつつ視線を声の主に走らせた。

 わざとらしい台詞。それが合図でなくて何なのか?

 奇声を発したのは男子高校生だったが、彼は連れを先にレジに向かわせてわざわざ真ん中のレジに向かった。

 矢沢は彼とカウンターの女子店員とのやり取りを何気ないていを装って注視した。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

 ドリンクの選択に彼は紙切れを見せた。

「承知しました。お会計は六百円です」

 女子店員は通常の営業スマイルだ。

 これは間違いなく怪しい。

 矢沢たちは最近この界隈かいわいで違法ドラッグが取引されているという情報をつかんだ。一般庶民の間で白昼堂々取引されているようなのだ。しかも千代田ゼミナールの職員や近隣のファーストフード店まで巻き込んでいる。

 矢沢は同僚とともにこのファーストフード店で腹ごしらえしつつ、注意深く目を走らせていたのだった。

 合図には敏感になっている。以前には「ポテトはいかがですか?」「ジャーマンポテトで」というふざけた合言葉もあった。

 とにかくあの男子高校生と女子店員は要チェックだ。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 しかし思わぬ展開になった。

「だよねー」を合図に別の男が立ち上がったのだ。

 その男が先ほどの女子店員から紙切れを受け取るのを矢沢は見た。これは当たりではないか。矢沢はその男を追うことにした。

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