第14話 平瀬
店内は
そのうちの一人が声高に言った。「おっと、今日は当たりだ!」
「え、何だって?」連れの男子高校生が問いかけた。
予備校の非常勤講師をしている平瀬にはわかる。高校生グループがあればその中にテンションの高い奴と低い奴もいる。周囲に目が行き届く奴もいれば全く見えない奴もいる。
カウンターレジに立つ女子店員の中に
平瀬は彼らの様子を何気なく観察した。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
「はい」
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
ここまでは定番のやりとりだったが、その後その高校生がとった行動に平瀬はおやっと思った。
「これで」と彼は何やら紙切れのようなものを取り出して天野絵智香に見せたのだ。
「承知しました。お会計は六百円です」
ドリンクは指定しなかったのに、天野絵智香は何事もないように対応している。紙にそれらしきことが書いてあったのかと平瀬は思った。
何だか怪しげなやりとりのように思えてきた平瀬はいささか落ち着きを失っていた。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
ほぼ同じタイミングで並んだにも関わらずその男子高校生のオーダーは連れの高校生よりも少し遅れて提供された。
平瀬は彼と入れ替わりに天野絵智香が迎えるレジの前に立ち、いつものチキンサンドとウーロン茶のセットを頼んだ。
バーガーには炭酸が合うと平瀬は思うが、バイト前の炭酸は控えることにしていた。
平瀬の腹は繊細で、炭酸を飲むと腹が張ったり、下痢をしたりするからだった。
トレイを手にした平瀬は、さきほどの高校生たちのテーブル近くに陣取って彼らの会話に耳をすませた。
「……だよねー」
天野絵智香のレジでオーダーした高校生が落胆したような声をあげた。
「ん?」と連れの高校生が不思議そうな目を向けた。
その様子を見ながら平瀬は何気なくドリンクのストローをくわえ、思い切り吸い込んだ。
炭酸が勢いよく平瀬ののどに到達し平瀬はむせた。飲み物はウーロン茶ではなくコーラだったのだ。天野絵智香が間違えたようだ。
平瀬はコーラをウーロン茶に取り換えてもらうためにレジに向かった。
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