第13話 蒼也

「おっと、今日は当たりだ!」

 カウンタークルーの中に彼女がいるのを見た蒼也そうやは思わず声を上げていた。

「え、何だって?」と間の抜けた問いかけをするさとるいたレジに向かわせて、蒼也はちゃっかり彼女のレジに向かった。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

 ファーストフード店のお決まりの台詞だが、蒼也の耳には彼女の声が心地よく聞こえる。

「はい」蒼也の声は少し上擦っていた。柄にもなく蒼也は緊張していた。

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」蒼也はいつものメニューをオーダーする。

「お飲み物はいかがなさいますか?」

 ここからが勝負だ、と蒼也は気持ちを奮い立たせた。ずっと以前から用意して持っていた紙を取り出して「これで」と彼女に見せた。

 彼女はその紙にしばしの間、目を走らせ、何事もない様子で答えた。「承知しました。お会計は六百円です」

 オーダーが揃うまでの間、蒼也は気が気でなかった。

 紙にはデートの誘いを書いておいた。その返事がドリンクで返ってくる。「オッケー」ならコーラ、「彼氏がいるからダメ」ならウーロン茶、それ以外に「タイプじゃないからダメ」がジンジャーエール、「保留」がオレンジという別の選択肢も用意しておいた。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 セットメニューが載ったトレイを蒼也は受け取った。そして急いでテーブルにつく。

 ドリンクは……何だ?

 蒼也はドリンクを蓋越しに見た。その濃さは何となくコーラよりはウーロン茶に見える。

 ストローを挿して吸い込んだ瞬間、蒼也は落胆した。

 やっぱり、そう「……だよねー」

 蒼也はため息をついた。ウーロン茶だった。

「ん?」悟が怪訝な顔をしているが、蒼也は無視した。

 その日飲んだウーロン茶は、心なしか苦い味がした。

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