第11話 私?
「おっと、今日は当たりだ!」
「え、何だって?」
若い殿方の声が聞こえます。しかし私からはその姿が窺い知れません。
ほどなくして、その一人がやって来たようです。
「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」
「はい」
少しトーンを落としているのは緊張しているからでしょうか。しかし間違いなく先ほど「当たりだ!」と叫んだ声でした。
「では、ご注文をどうぞ」
「ヒューストンバーガーのセットで」
「お飲み物はいかがなさいますか?」
「これで」
その若者は、小さな紙切れを広げました。
文字が透けて見えます。どこか見知らぬ国の文字のようです。何と書いてあるのか私にはわかりません。
「承知しました。お会計は六百円です」
美しい給仕の娘は、分け隔てのないふだんの微笑を浮かべます。
若者は料理が揃うのを待っています。
とんとんと指がせわしなく動き、その振動が伝わってきます。
「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」
給仕の娘は丁重に頭を下げ、若者は料理を受け取りました。
代わりに姿を現したのは、さきほどの若者より年長の殿方でした。
少し眠たげに瞼を落としていますが、聡明そうな顔で好感が持てます。
おお、目が合ってしまいました。
彼の顔がぴくっとしたのがわかりました。もしや私の魅力にあてられたのかもしれません。
一方、給仕の娘の顔がぱっと華やいだように輝きました。彼女の意中の殿方なのでしょうか。
殿方と娘とのやりとりは形式上、先ほどの若者とのやりとりと変わりはありません。
しかしその場には何やら熱い風が吹き注いでいるようでした。
やがてその殿方も料理を受け取り、下がっていきます。
娘はいささか残念そうに見送っていました。
「……だよねー」
「ん?」
その声がしたかと思うと、さきほどの殿方が再び戻ってまいりました。
待ち受ける娘の顔がふたたび明るく輝きました。
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