第10話 梨里杏

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 そんな声がして梨里杏りりあはスマホから顔を上げた。

 前に並んでいるのは近くの予備校に通う男子高校生たちだ。

 一人軽薄そうなのがいる。どこの高校だろう。

 彼が騒いでいるのはカウンターにびっくりするくらい激カワの子がいたからに違いない。

 後ろの連れに向かって興奮と緊張が入り雑じったような顔を向けていた。

 梨里杏りりあは彼の視線から逃れるために連れの後ろに身を隠した。

 梨里杏だって可愛いんだからね。

 それよりすぐ後ろに平瀬ひらせ先生がいる。それもまた緊張するんですけど。

 軽薄男子は順番を変えてまでして激カワの子のレジについた。

 梨里杏は右のレジが空いたように見えたので行こうとしたら、前にもう一人並んでいる男子がいた。影が薄かったので見えなかったよ。

 待機しながら梨里杏は真ん中のレジを見る。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

 激カワの子はさすがだ。見事な営業スマイルで軽薄男子の相手をしている。

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

 何か紙切れを見せたのを梨里杏は見た。自慢じゃないが梨里杏は目が良い。こそこそしているのは見逃さない。

「承知しました。お会計は六百円です」

 オーダーを終えた軽薄男子が梨里杏の方を向いた。

 ヤバイよ、ヤバイよ。見つかっちゃうよ、可愛い梨里杏が。

 でも軽薄男子は梨里杏が見えていないようだった。

 カウンターの向こうでは激カワの子が隣の子にドリンクを揃えるようにお願いしていた。

 頼まれたその子がいたずらっぽい笑みを浮かべたのを梨里杏は見逃さない。

 軽薄男子はカウンターに背中を向けて気どった様子で揃うのを待っていた。

 先に左のレジが空いたから梨里杏は軽薄男子と激カワの子を気にしながら空いたレジに向かった。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 軽薄男子がトレイを受け取り、替わりに平瀬先生が激カワ女の子の前に立った。

 横目で様子を窺う。

 激カワの子の笑顔が全然違う。営業スマイルじゃない。怪しい。

 後ろで「だよねー」という声が聞こえた。「ん?」

 そうだよね、お前はお呼びでない。

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