第6話 また別の私

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 あの人の声が聞こえる。私はちょっと緊張する。

 夕刻のクイーンズサンド。ここには授業を受ける前の千代田ゼミナールの生徒たちが毎日やって来る。しかしあの人が毎日来るわけではない。私は今日ひさびさにあの人に会った。

 三つのカウンターレジには私たち女子高生バイトが立っている。

 あの人は私の前に来るかしら。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

「承知しました。お会計は六百円です」

 ほぼ同じタイミングで、ヒューストンバーガーのセットメニューがオーダーされたので、私たちはバーガー、ポテト、ドリンクをそれぞれ分担して用意した。その方が効率が良いからだ。

 ドリンクだけが別メニューになっていたので、それだけを間違えなければ良かった。

 ドリンクのオーダーに少し時間がかかったけれど、私はトレイの上にセットメニューを並べて滞りなく提供することができた。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 あの人たちが近くのテーブルについた。

 私は次のお客様の相手をしながら、あの人たちの様子を窺った。

「……だよねー」という声がした。

「ん?」と発したあの人の声の方が私の耳にしっかりと届いた。

 私のお薦めのコーラ、おいしかったかしら。

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