第4話 あたし

「おっと、今日は当たりだ!」

「え、何だって?」

 聞き覚えのある声がしたので、あたしはドリンクの蓋をし終えると、さりげなく声の方を振り返った。

 やっぱりあいつだ。

 あたしは一瞬、身構えたが、あいつはあたしのことなど眼中になかった。今、店には絵智香えちかがいる。絵智香がいると男子の視線は絵智香に集まるのだ。

 あいつは百子ももこのレジがいたにもかかわらず、連れをそこに追いやって、絵智香のところにやって来た。

「いらっしゃいませ、こんにちは。店内でお召し上がりですか?」絵智香の営業スマイルは憎らしいほど男子の胸に突き刺さる。

「はい」

「では、ご注文をどうぞ」

「ヒューストンバーガーのセットで」

「お飲み物はいかがなさいますか?」

「これで」

 あいつは声に出して答える代わりに一枚の紙きれを見せた。

 また、それかよ。いったい何人に同じことをしているんだよ。

「承知しました。お会計は六百円です」

 さすがは絵智香だ。こういうことに慣れている。

 絵智香はあたしを横目で見ると、カウンターの下であたしに紙切れを見せた。

 デートの誘い。返事が選択肢になっていて、ドリンクの種類で回答するのだ。

 ウーロン茶、用意してあげるよ。あたしは絵智香にささやいた。

 ありがとう。絵智香の口が動いた。

 あたしもあいつに一度同じ紙を見せられたことがある。その時と同じ選択肢だった。だからNOがウーロン茶であることも知っていた。

 一緒に来ていた連中はみなセットメニューだったから、絵智香がまとめてポテトを用意し、あたしがドリンクを担当した。

 だからあいつのドリンクもあたしが用意したのだ。もちろんウーロン茶で。

「お待たせしました。ごゆっくりお召し上がりくださいませ」

 絵智香に見送られて、あいつと連れはテーブル席へと移動していった。

 あたしはあいつがどんな反応をするのか興味があったので次の客の相手をしながらあいつの様子をうかがっていた。

「……だよねー」あいつが声を上げた。

「ん?」連れの高校生が不思議そうな顔をしている。

 あいつの顔が苦虫をかみつぶしたように見えたのであたしは可笑おかしかった。

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