-第2話-

 自室で独り、ミリターニャは涙を流しながら返信を書いた。

 ――卒業するまで付き合えないわ。

 伝書鳩の足首にその旨の手紙をくくりつけて飛ばす。

 

 ベッドはふかふかなのに、涙で寝れない夜をミリターニャは過ごした。

 

 以来、卒業するまでフレデリコは手紙を寄越さなくなった。

 代わりに、100万本のバラが寮のミリターニャの部屋の宅配ボックスに届いていた。

 さすがに部屋に飾りきれないので、半分の50本を隣室のニーナにお裾分けした。


 ミリターニャからは花も手紙も送らず、ひたすらファッション雑誌の読者モデルのコンテストに応募し続ける。


 私はぺーラ領の恥晒しなんかじゃない。


 ミリターニャはずっとその信念を貫き通している。

 それはフレデリコもニーナも同じだった。



 冬休みに入り、アデリアーナとそのとりまきたちは帰省していき、寮には居残り補習が確定した学生とフレデリコとニーナとミリターニャだけが残った。


 ニーナの案で3人は寮から一番近い鍋料理屋に入り、鍋をつつく。

 話題は専らアデリアーナのことだった。


「どんなに見た目が良くても性格が醜悪じゃあ、いつか売れなくなる日も近いだろうな」

「だよね〜。あたしもそう思う。もうあんなのに憧れる価値は無いね。いずれモデルの世界から消えて実家の自分の部屋にひきこもるようになるんだよ、ああいうのは」

「じじじじじじじじじじじ実家?! 冗談じゃないわ!」

「前から気になってたんだけど、もしかしてターニャの姉って、アデリアーナなの?」

「私が修道院から引き取られてからは私にとっては姉にあたる人だよ」

「ぅわちゃ〜。それはつらいな」

「ぺーラ領領主の第一令嬢があれじゃあどうしようもないな」

「ぺーラ領領主の恥晒しはアデリアーナのほうよ。今一番相応しいとすればターニャしかいないと思う」

「ありがとう、みんな。あたし、いつか必ずアデリアーナに認めてもらえるように頑張る」

「あまり無理しないほうが良いよ。きっと精神病なんだわ、アデリアーナは。でなきゃこんなにきれいになったターニャを悪く思わないでしょうに」

「そうするわ。まぁ、アデリアーナが卒業したら、私が卒業するまで顔を合わせることもないだろうし」


 


 お会計を割り勘で済まし、寮の自室に帰ってから、ミリターニャの部屋にまた伝書鳩が来た。

 

 送り主は大手のプロダクションからで、ミリターニャはコンテストで合格したらしい。


 プロダクションからモデルの仕事が舞い込んできたのはその翌日の夜だった。

 

 

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