第3話
言わずにはいれなかった。知っていた。外に放り出されることになるくらい知っていたさ。誰もいない砂漠のど真ん中をおれは歩いている。遠くには砂嵐が見える。巨大な壁のようだ。あの中にはまさしく死を感じる無力さがあるのだろうと思うが、今はそんなものでも見えることが生の実感をくれる。
水を勝手に分け与えてはいけない。それがルールだ。選ばれ、水の給付を受けられない人間に、水を与えてはならない。限りある資源を受けとる人間もまた、限られる。そういうルールだ。だが、知っていることと納得していることは別だ。何の基準で救いの手を切るのかについて、わからない。人々の間では、暗黙の了解として、慣行となっていたが、おれはどうしても納得できなかった。
水の配給を待つ列。ある親子がおれの目の前に並んでいた。ひとりの配給の管理者がこちらに近づいてくると、その親子の前で止まった。もう、お前たちに与える水はない、と。見慣れた光景ではあった。うつむいて従うもの。暴れだし、取り押さえられるもの。眼前で、或いは少し遠くの喧騒として、幾度も目の当たりにしてきた。訳も分からず、ただ死に等しい宣告をされるだけ。あのときは溜まっていた感情が吹き出てしまったのだろうか。物言いをしてしまった。
いつもいつも、理由もろくに言わないで、勝手に決めやがって。
その一言の末に、秩序を乱すものとして、追放されたわけだ。
土煙色の景色のあのなかには、いずれ、おれの屍が横たわるのだろう。
それでも歩みを続けるのは何のためだろうか。
果てなき絶望を目の前にして、なお、歩き続けるのはなぜだろうか。
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