第4話
確かに、あった。水はあった。
いつもの穴掘り。その底から水が溢れでてきた。それは希望ではないのか。なぜ、拘束されなくてはならないのか。調査の任を与えられ、これまで何度となくシェルターの外の労働場を調査してきた。ようやくの発見だ。この干上がった地球に、水があったというのに、なぜこんな扱いをされなければならないのか。
足音が聞こえる。こちらに近づいてくる。緊張で体が強ばる。ドアが開く。三人入ってきた。
「まずは、失礼を詫びよう。水がある。信じたいことではあるが、君の発言を素直に信じるわけにはいかない。行政の立場から、デマの可能性のある事柄を、看過するわけにはいかなかった。混乱を招く恐れもあった。強引な手段を取り、申し訳ない。」
全くもって失礼である。なぜここまで信用されないのか、大変不愉快になった。
「君の見たものについて、こちらでも調査を行いたい。場所を教えてくれ。」
お偉いさんとは、こういうものなのだろうか。
「シェルター外に水があることは、公表しない。君にも、この安全な場所で、これまで通りの生活をしてもらう。」
何も変わらない。あれだけの発見をしたのに、なにも変わらない。ショックで心が真っ白になった。
「有意義な調査であったことは認めよう。しかし、君は、限りある資源のために、これまでに犠牲となった人々を、もっと敬ったほうがいい。」
なんて、心のない言葉だ。言葉が出ない。なぜそんなことを言えるのか、理解できない。その状況をわずかでも変える可能性があると考えて、調査に励んできたのに。その希望を含んだ発見があったというのに。言葉を飲み込み、黙るしかなかった。
「知っているか。」
沈黙を許さない問いかけ。
「人体のほとんどは、水だ。」
そう言って、端末を差し出してきた。動画が再生される。液体に満たされたタンクを、上から写している。何か運ばれてきた。人形か。いや、人に見える。動かない。遺体だろうか。タンクに放り込まれていく。タンクにフタがされた。十数秒経った後、開けられたタンクには、液体が入っているだけだった。
「そこには、犠牲となった人々の命の水が入っている。我々、人類の命をつなぐ水だ。」
何を言っている。
「それは、人間の水分を取り出す装置だ。お前も、その恩恵にあずかっているんだ。犠牲を哀れむような真似はよせ。」
吐き気をこらえきれなかった。
知りたくなかった。
犠牲という言葉におさまることなのだろうか。
人間を生かすために人間を殺している。疑いたいし、否定もしたい。しかし、そのおかげで生きてきた自分がいる。命の尊厳を語る資格など自分にあるようには思えない。
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