骸
闇。何ものも映さぬ暗闇。何も見通せない。体の芯から凍りつかせるような冷たさが満ちた空間に、骨と化した骸の海がある。
果ての見えぬ景色。上は空間、下をみれば人の骨。生命など微塵も感じられないところに横たわっている。
いつからだったのだろう。体は動かせない。ただ、自分以外に生命を知っているものはいないような気がする。ひたすら寒い。空間に熱を奪われていく感じがする。自分の奥からわき出てくる熱がかろうじて自分を保っているような気がする。これが尽きたらどうなってしまうのだろう。
あまりに何もない景色。動きもない。風も吹いていない。全てが静止しているなかで、自分は異物のような感じがする。しかし、いずれ飲み込まれてしまうのだろうか。圧倒的な静寂のなか、抗いようもなく、自分が飲み込まれてしまうのだろうと、感情をはさむことなく、理解した。悲しみもなく、絶望もない。ただ、ひたすら骸となって、身を横たえるだけの存在。それが集まって、白骨の海となっている。
首は動く。首だけは動きそうだ。ふと、横を見ると、その骸は、赤い着物を、いや、よく見ると、その下にも何枚か着物がある。十二単という言葉が浮かんだが、重ねているのは三枚か四枚か。大河ドラマなんかで見た着物の具合によく似ている。頭に、ひな祭りのときに見たような飾りがついている。生気はない。喋りそうでもない。こちらを向いているが、その目は、空洞で、どこを見ているということもない。何も映っていないことがわかる。ただ、そこに寝ているだけの骸だ。
その骸は、なぜか、おれの手を握っている。おれはそんな時代に産まれていないし、着物を着た人と知り合ってもいない。この時代にこの格好をする人はそういないだろう。
いったい誰。
そこで目が覚めた。体は冷えきっていて、骨は凍っていたんじゃないかというくらい、体の内側からきんきんと冷たさを感じる。
いずれ、ああなるのだろう。そんな心持ちになった。奇妙な納得があった。
虚ろで、何も動かない空間。
いずれ、ああなる、であれば、今、体と生命のあるうちに、やりたいことをやるべきだな。冷たい暗闇に横たわる骸骨となるまでに。
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