蜂
蜂とにらみあっている。
オオスズメバチというやつだ。黄色と黒のコントラストが毒々しい。静かな羽音が緊張感をあおる。空中で静止したまま、こちらを二つの大きな黒い目で、にらみつけている。
恐ろしい。
自分の手のひらほどの大きさなのに、こんなに恐ろしいものだとは。何かされるだろうという危機感がある。体に刻み込まれている何かがしきりに警報をならしている。汗がじっとりとにじむ。とても動く気にはなれない。一瞬の隙をついて逃げだしたい気持ちは、胸のなかをうずうずとかけまわっているのに、動かず騒がず様子を見ることに徹している。身体中の筋肉が、動かないことを選んでいる。動くのは、今ではないことを体に染み込ませている。神経がはりつめているのに、穏やかに整っている。ひたすら脅威に対処すべく、全細胞の意思がひとつになっているようだ。今、このとき以外はなにも気にならない。
顎から、汗が一滴。
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