第36話
『○月○日、施設内で生徒同士の喧嘩あり。備品が壊れる』
この施設は長い年月をかけて様々なことがあったことがわかる。
私は更にファイルをめくっていく。
「ないな……」
修がファイルの最後のページを確認して焦りの滲んだ声で呟いた。
「もう全部確認したの?」
「ああ。施設ができてしばらくは高校を中心にして貸し出していたみたいだ。中学校や小学校はほとんどこの施設に来てなかった」
説明しながら次のファイルへ手をのばす。
それが最新のファイルだった。
私は小学校5年生が利用したと書かれているファイルを丹念に読み込んでいく。
「確か、日記の中の日付は夏だったよね」
7月30日から、8月1日までの利用だったはずだ。
更にそこから絞り込むことができる。
春から順番にファイリングされているから、夏のところだけを調べればいい。
夏に利用した、小学校5年生。
一番大切なのは備考欄だった。
あの部屋でなにかが起こったのだとすれば、必ずなにか書かれているはずだ。
そして10年前のファイルに目を通し始めたとき、「あった!!」と、思わず声を上げていた。
備考欄に『救急搬送された生徒あり』と書かれていて、学校名は大橋内小学校となっている。
「8月1日、救急搬送された生徒あり。その後2人の生徒が行方不明」
「行方不明?」
読み上げる隣で修が眉間にシワを寄せた。
「日記には書かれてなかったよね」
「あぁ。だけど少年は部屋に閉じ込められていたから、なにかがってもわからなかったんじゃないか?」
そうかもしれない。
この日に起こったことは事件へと発展しているため、新聞記事が貼り付けられていた。
私達はその記事も丁寧に目を通していく。
『○○年、8月1日。
宿泊合宿施設で、1人の男児が救急搬送。2人の男児が行方不明』
それほど大きくない文字で書かれたその新聞は、きっと地元新聞なのだろう。
ニュース番組で報道されないくらい、小さなものとして扱われていたことが伺える。
『施設内で男児が発作を起こして倒れ、救急搬送された。
男児は持病の喘息を持っていたとのこと。
その後、同中学校の男児ふたりが行方不明。
捜索を続けている』
記事の下には行方不明になった男児ふたりの白黒写真と実名が乗っている。
「田中良二と、小原公孝か」
修が呟く。
どちらも聞いたことのない名前だ。
日記を書いたであろう男児の名前が書かれていない。
「この記事が正しければ、このふたりが行方不明になったのは、救急搬送された後ってことだよね?」
「たぶん、そうだな。発作と生徒が消えたこととなにか関係があるのか……?」
眉間に深いシワを寄せる修に対し、私はなにかひっかかるものを感じていた。
「この日、日記の少年は友達に呼ばれてついていったんだよね?」
「そう書いてあったよな」
「もしかしてこの行方不明の男児たちって、少年を呼び出した子たちじゃないかな?」
これは単なる憶測だった。
事実はなにもわからない。
けれど、今ままで起きた出来事と過去を照らし合わせてみると、そう解釈できる。
「それで、ふたりが消えたときにはもう、少年は息を引き取ってたのかも……」
少年が死んだなんて考えたくはなかったけれえど、あの御札の部屋や非現実的な出来事を考慮すると、もうそれ以外に可能性はなかった。
「少年が発作を起こして死んだから、ふたりの男児が消えた?」
「そう。きっと消されたんだよ! 今の私たちみたいに!」
真相に近づいてきてつい声が大きくなる。
「そうか。それであの部屋は封鎖された」
修の呟きに私はまたファイルをめくった。
「でも、誰が少年の発作と行方不明事件を結びつけたんだろうな」
「少年は合宿でここに来てたんだよ? 目撃者くらい、沢山いたんじゃないかな?」
少年がひとりでいたところに声をかけた田中と小原。
ふたりと一緒に部屋へ向かう少年。
それらを見ていた人物だって、きっと少年が発作で死んでしまうなんて思ってもいなかったんだろう。
子供の悪ふざけ。
または同級生の単なるイタズラ。
そう捉えていたのかもしれない。
だけどその後閉じ込められていた少年が発作に倒れて死んでしまう。
その直後に関与していたふたりがこつ然と消えてしまって、きっと不安になったんだろう。
これは少年の呪いに違いない。
そう判断して、あの部屋を封じたんだ……。
「結局、行方不明のふたりは見つかってないのかな?」
修の言葉に私は苦虫を噛み潰したような顔をした。
「たぶん、そうだと思う」
今私達の身に起こっている出来事が、無条件で実行された可能性はある。
自分を閉じ込めて死に至らしめたクラスメートふたりを、許してはおけなかったんだろう。
「その御札を破ったってことか……」
修が頭を抱えてうめき声をあげる。
「ごめん。本当にごめんね」
あの部屋がいわくつきの部屋だとわかっていれば、入ることはなかった。
全力で充たちを止めていたのに。
「歩のせいじゃない」
そういいながらも修は顔を上げてくれない。
胸がチクリと痛むけれど、私達のせいで巻き込んでしまったのだから当然の結果だった。
この合宿で少しでも仲良くなりたいと思っていたけれど、それはもう無理かもしれない。
「待てよ?」
ふとなにか思い出したように修が顔を上げる。
「それならどうして俺たちは一気に消されずに、回りくどいことをされてるんだ?」
「え?」
そんな事考えたこともなかった。
「どうして毎日ホワイトボードに命令なんて書く必要があるんだと思う?」
その質問には答えられなかった。
もしかして、少年は怨念だけで動いているのではなくて、もっと他の理由がある?
私はすぐにファイルに目を通し始めた。
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