第35話

【ドアが何度もけられて、すごい音がしてる。



僕は怖くて、布団を出してくるまってる。



とても暑いけど、音を聞いていたくない】



真夏に布団をかぶらなければならなかった少年の心境に胸がチクチクと痛くなる。



少年が他の人と同じようにできないのは病のせいなのに、それが理解されない世界にいたんだ。



【音が止まった。



でも、ドアが開かない。



もしかして閉じ込められたのかな?】



閉じ込められたという文字を見た瞬間息を飲んでいた。



真夏にこんな部屋に閉じ込められた?



冷暖房もなく、外に連絡を取る手段もない部屋に?



【暑い。息が苦しい】


少年の文章が乱れてきた。



今までは罫線にそって丁寧に書かれいた文字がブレで、罫線からはみ出している。



【発作が出てきた。でも薬をもってない。誰か】



その文字は苦痛に歪み、指で擦れてしまっている。

ノートのあちこちにシミができていて、それは少年が苦しんで流した涙のあとだということがわかった。



「日記はここで終わってる」



修がノートを何度もめくって確認している。

これが少年が最後に残したメッセージだったのかもしれないけれど、わからない。



この施設で誰かが死んだとか、そういう話はまだ聞いたことがなかった。



「私達これからどうすればいいの?」



私の声は自分でもびっくりするほど震えていた。

自分ではその震えを止めることができない。



「この子について調べよう」


「でも、名前もわからないのに、どうやって?」


「事務所にいけば、施設の利用者ファイルがあるかもしれない」



そう言って修が立ち上がる。

その足が少しふらついていた。

修も、この部屋で起きた悲惨な出来事に動揺しているんだ。

私は奥歯を食いしばって立ち上がり、修と共に部屋を出たのだった。



調べる


もう何度目かの事務所に入ると、私達は壁際にある大きな本棚へ向かった。

その本棚にはこの施設が作られた30年前からのファイルがズラリと並んでいる。



「これだ」



修が手にとったのは施設の利用者ファイルと書かれたものだった。

ファイルは30年前から去年までの、膨大な量に上る。

設立から10年後までの利用者情報が書かれている分厚いファイルを一冊手に取ると先生の机に置く。ドンッと重たい音が響いた。


修はすぐにファイルを確認していく。

私は設立10年から20年までのファイルを手に取ると、その重たさに少しよろめいてしまった。



「日記の子は小学5年生だったから、それを頼りに探すんだ」



修に言われてひとつ頷く。

ファイルを開いてみると、そこには利用年月日や利用人数、学校名が書かれていて、その下には備考欄があった。

備考欄は基本的には空欄になっていたけれど、施設内でトラブルなどがあった場合には使われていたみたいだ。



『○月✕日に停電あり。すぐに復旧』

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