第30話
「ごめん……ごめんな充」
教室に戻ってきてから正志は膝を抱えてずっと泣いていた。
入ってはいけない部屋に入ろうといい出したのは充だった。
消える直前に充はそれを気にして、狂ったように走り出したのだ。
そして、消えてしまった。
正志の胸には今罪悪感が支配していた。
「お前のせいじゃないよな。俺だって、楽しんでたんだ」
いくら謝罪をしても考え方を改めても、肝心の相手には届かない。
大切な親友はもういない。
「いつまでもこうしてても意味がない。次は正志の番かもしれないだろ」
厳しい意見を言ったのは修だった。
修はさっきから正志へ向けて険しい表情を浮かべている。
もう3人しか残っていない上に、正志は消えてしまうかもしれないのだ。
ここまで危機的状況で、いつまでも泣いていてもらっては困る。
「とにかく、もう1度部屋に行ってみない?」
私も正志にそう声をかける。
やれるだけのことはやらないと、このまま消えるのを待つなんて、正志だって嫌なはずだ。
正志は何度か鼻をすすり上げてから顔を上げた。
目が真っ赤に充血している。
「そうだな。なにか、しないとな」
怒り始めることもなく、ゆっくりと体を起こす。
1人きりになってしまって、ようやく協力することの大切さを理解したのかも知れない。
「カギは?」
初日、あの部屋のカギは充が準備していた。
今は誰が持っているんだろう?
「カギはあの後すぐに返したはずだ」
ということは、事務室だ。
私達3人はまず事務室へむかった。
ドアを開けて中に入ると、本来そこにいるはずの先生の姿が一瞬見えた気がして、すぐに幻覚だと気がついた。
先生の幻は近づくと陽炎のように消えていく。
事務室の壁にかけられている何種類もあるカギには、ちゃんと部屋番号が振られているけれど、その中でもなにも書かれていないカギを正志は手にした。
「これだ」
そのカギだけやけに錆びついているのは、ずっと使われていないからか。
カギを握りしめて再び廊下を歩き始める。
私達しかいない施設内は怖いくらいに静まり返っている。
少し歩くだけで自分の足音がうるさく感じられるくらいだ。
そし部屋の前までやってきたとき、小さな音が聞こえた気がして首を傾げた。
私達は今部屋の前で立ち止まっているから、なにも音はしないはずなのに。
まさかこの部屋の中から聞こえてきたんだろうか?
緊張しながらも、そっとドアに耳を近づけてみる。
部屋の中からなんの物音も聞こえてこない。
気のせいだった……?
そう思って油断した瞬間、キィィと、なにかがキシムような音が鼓膜を揺るがした。
「なんだ!?」
驚いた正志がカギを取り落とす。
3人同時に音がした方へ視線を向けると、そこにはホワイトボードがあった。
ホワイトボードは教室の中にあったはずなのに、なぜか廊下に出てきている。
「なんで……」
得体のしれない恐怖に全身が凍えたとき、ホワイトボードがキィィと音を立ててキャスターを回転させながらこちらへ近づいてきたのだ。
「嘘だろ!?」
正志が逃げようとするけれど、ここは1階の最奥だ。
逃げ道はない。
ホワイトボードはぐんぐんスピードを上げて近づいてくる。
このままじゃぶつかる!!
壁にべったりと背中をつけてキツク目を閉じる。
次の瞬間ガシャーンッ! と大きな音が響いていた。
ハッと息を呑んで目を開けると、目の前にホワイトボードが倒れて、カラカラとキャスターを回転させていた。
そして、正志の姿はどこにもなかったのだった……。
合宿参加者
山本歩 山口香(死亡) 村上純子(死亡) 橋本未来(死亡) 古田充(死亡) 小高正志(死亡) 安田潤(死亡) 東花(死亡) 町田彩(死亡) 上野修
担任教師
西牧高之(死亡)
残り2名
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