第29話

だって修はずっと応援してくれていた。

みんなでグラウンド100周したときも、テストのときも。



「どけろよ!」



正志が私の顔の前で怒鳴り散らす。

唾が飛んで私の頬にかかった。

顔をそむけてどうにか我慢すると、正志を睨みつけた。



「喧嘩はしちゃいけないって、ホワイトボードに書いてたはずだよ。ここでまた喧嘩したら、きっと消えちゃう!」


「だからなんだよ? 俺と充のふたりはどうせもう手遅れだ。だったら一番怪しいやつを攻撃したっていいだろうがよ!」


「手遅れだなんて、そんな……」



大丈夫だとは言い切れない。

未来は喧嘩をやめた後で消えてしまったんだから。

それでもこれ以上言い争いをさせたくなくて、私は両足にグッと力を込めた。

意地でもここからどかないつもりだ。



「くそっ! くそっくそっくそっ!」



途端に頭をかきむしって絶叫し始めたのは充だった。



「俺のせいかよ。結局俺のせいなのか!?」



1人でぶつぶつつぶやいていたかと思うとホワイトボードを両手でなぎ倒した。

バタンッ! と大きな音を立ててホワイトボードが横倒しに倒れる。

充はそのまま教室から駆け出してしまった。



「充!?」



この状況で充を1人にするわけにはいかない。

今度はいつ、誰が消えてしまうかわからないんだから。

私は迷わず充を追いかけた。

その後を追って正志と修もやってくる。


充は玄関へかけていくとその勢いで外へ出ようとする。

しかしその体は見えないなにかによって弾き返されてしまう。

ここから出られたのは、グラウンドに出る命令が出たときだけだった。


弾き飛ばされた充はまた起き上がり、同じ勢いで出口へ走る。

そしてまた弾かれる。

体が地面に打ち付けられる鈍い音が響く。



「あああああ!!」



絶叫しながらまた走る。



そして弾き返される。

それでもまた走る。

次の衝撃で充の右肩が床にぶつかり、嫌な音が聞こえてきた。



「ぐっ……」



充が右肩を抑えながら無理やり立ち上がる。

額には脂汗が浮かんできていて、痛みに顔が歪んでいる。

今の衝撃で肩の骨が折れてしまったのかもしれない。



「もうやめろ!」



正志が叫ぶ。

けれど充はまた走りだした。

大きな声を上げて走り、見えないなにかに弾き返される直前、その姿がふっと空間から消えていた。


充の足音も、絶叫も、息遣いも、すべてのものが喪失する。

開け放たれた入り口のドアから風が吹き込んできて、私達をあざ笑うように体にまとわりついてきたのだった。



合宿参加者


山本歩 山口香(死亡) 村上純子(死亡) 橋本未来(死亡) 古田充(死亡) 小高正志 安田潤(死亡) 東花(死亡) 町田彩(死亡) 上野修


担任教師


西牧高之(死亡)



残り3名

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る